第4話 保健室

「痛っ」


「おいおい、大丈夫か?誰か保健室に運んであげて」


「なら、わたしが行きます」


「お、おうわかった。ありがとな、大橋」


大橋さんに立てるか?と聞かれ首を振ると目の前にしゃがみ込み背中に乗るように合図された。今は昼放課終わり、丁度眠たくなってくる5限の体育。ランニングをしていた私はグラウンドで足を挫き、立てなくなっていた。


「大丈夫か?足は痛くないか?」


「う、うんありがと。大橋さん」


怪我の様子を聞かれながら、少し離れた保健室に運んでもらう。おんぶされていると、余計に大橋さんが綺麗に見えてくる。少しにやけてしまった。


「なにニヤついてるんだ。やっぱり頭も保健室で一回見てもらった方が良さそうだな」


「ひどい!怪我人に対してなんで言い方なの!」


「足挫いたのとこれとは関係ないけどな。なんなら、今ここでおろしてやろうか?」


「あ、すみません。おとなしくするのでそれだけはお願いします、勘弁してください」


「冗談だよ。そんな露骨に態度変えるなよ」


「でも、大丈夫?私、重くない?」


「いや、重いからちょっと力使ってる」


そっちもそんな露骨に私に貫通ダメージを与えるようなこと言わなくていいでしょ!?と心の中でツッコミを入れる。


普段、大橋さんは超能力を使わないように生きているらしい。超能力に頼り過ぎれば廃人になってしまうから、と言っていたが、元々の性格的に大橋さんはそんな風にはならないと思う。だからこそ、力を使わないって制約をつけてるんだろうけど。


「よし着いたぞ、ちょっと扉開けてくれ」


曇りガラスの向こうに人影が見えると、扉が開いた。霊智高校で人気のある保健室の先生だ。彼女に見てもらうと傷の治りが早くなるなんて噂も立つ敏腕だ。


「あらら、どうしたの大橋さん」


「いや、私じゃなくてこっちだ。体育の時間に足を挫いたらしい」


「まぁ、じゃあそこのベッドまで運んでもらっていい?」


「分かりました」


私以外と普通に話す大橋さんは新鮮だ。いつもはどの先生にも睨み付けてはスルーするのに、受け答えをするのは見たことない。


「失礼だな、私もこのくらいは出来る」


あ、また頭の中読まれた。


「とりあえず私が様子を見ておくから、大橋さんは授業に戻っててもいいわよ」


「分かりました、私はこれで失礼します」


扉のピシャリと閉まる音がした。だんだん視界がぼやけていくと思った時には、すでに私は眠っていた。


「……さん、起きて。もう足も大丈夫よ」


「え……私、寝てましたか?」


寝起きで頭が回らない。どうやら保健室に運んでもらった後、気付かないうちに眠ってしまっていたらしい。


「ぐっすりとね。どう、自力で立てる?」


そういえば、足の痛みを感じない。見ると、丁寧に処置をしてあった。きっと寝ている間に先生がやってくれたのだろう。


「あ、先生ありがとうございます。自分で歩けるようにもなってます」


あれだけあった痛みは全く無く、挫く前同様、いやそれ以上に健康的になっている気がする。流石、噂の先生だ。


「それは良かった。歩けなかったら大橋さんを呼ぼうと思ってたけど、その心配は無さそうね」


「いえ、是非……じゃなくて呼んでくれると嬉しいです。やっぱり痛いかも……」


その場に座り込み、足に手をやる。大橋さんに帰りも来て欲しいから。


「あら……わかったわ、大橋さんを呼んであげるわ。でも、ウソをつくならせめて痛めた足の方をおさえるべきよ」


あ、しまった。あまりに綺麗に痛みが消えたせいで、手をやる足を間違えてしまった。急に顔が熱くなる。


「先生、顔が熱くなってきたんですけど……治せませんか?」


「それは……無理ね」


呆れた顔をした先生を見られなくて、今度は顔を全面おさえてしまった。


「あ、ほら大橋さん来たわよ。ほら立って立って」


言われるがままにパスされた私を大橋さんが受け取り、保健室をあとにした。


「足……治ってないのか?」


「うーん、治ってないみたい……かなぁ?」


私に嘘をついても無駄だ、と言わんばかりの視線をさっと避ける。頭の中を読める人に嘘は通じないか……


「あと、絶対治ってるはずだしな。挫いたくらいなら」


「え、ドユコト?」


「驚きでカタコトになってるぞ……ってまあ、お前になら言っていいか。あの人、治癒能力もった超能力者だぞ」


また新しい能力者を知ってしまった。しかも、大橋さん同様、こんな身近なところで。

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