大橋さんはいつも怒ってる

赤たこ

第0話 プロローグ 

『私立霊智高校』は県でトップクラスの進学校だ。

難関大学合格者は在校生の約9割近くを占めている、そんな超エリート集団の巣窟みたいなところで、今日私は……


「おい、面貸せ」


「あ……はい……」


クラスメイトに脅されていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


時は数日前に遡る。


霊智高校に合格した私は1ヶ月の間に殆どのクラスメイトと男女問わず友達になることができた。

みんなも新しい学校だからと友人作りに多少なり積極的であったから、友達が居なくて入学すぐぼっちになる悲惨な状況を免れるのは簡単だった。


ただ、一人だけ、たった一人だけ1ヶ月経った今でもクラスに話したことのない人いた。『大橋巴』さんだ。


実を言うと大橋さんは私の隣の席にいる。こうしてる今も左側の椅子に座って普通に授業を受けている。だけども、彼女は誰とも話さない。私は大橋さんが話しているところを入学初日から今日にかけて本当に一度も見たことがない。


プリントを渡す時だって常に無言で、終業のチャイムがなるとすぐに教室を出て行ってしまう。別にいじめられているとか、そう言うわけじゃないけれど、そんな素っ気ない彼女に対して話しかける人は瞬く間にいなくなった。


容姿は整っていて、所謂美人。スレンダーでモデル体型。外見に非の打ち所がないような彼女をクラスの男子が放っておく筈がなかったが、ことごとく散っていった。


そんな彼女のことが心配で、私は放課後にあとをつけることにした。これはストーカーとかそう言うわけじゃなくて、普段すぐに帰ってしまう理由を探すためだからセーフと自分に言い聞かせて。


間隔を約15mほどに保ちながら電柱やポストの影に隠れながら30分、市内を流れる大きな川の河川敷に来たところで私は見てしまった。


「お、大橋……さん……?」


3人の大柄な男に囲まれ、その中央には凛として直立する大橋さんの姿があった。完全に事件だ。早く大人を呼んでこなくちゃ……と思っても怖さで足がすくんで動けなかった。


悲しいことに携帯も親の教育方針で持たせてもらっていない。だから警察に連絡することもできずに、ただその状況を見るしかできなかった。


「やあ、大橋さんずっと待ってたんだよ。ここに居たらきっと君がくると思ってたからね。先に待たせてもらっていたよ」


「……」


やっぱり、大橋さんは声をあげない。いや、怖くて声を上げられないんだ。じゃあ、今動けるのは……私だけ……?


「用件は勿論あのことなんだけど……それなりの落とし前を……」


「……」


今ここで行かなきゃ一生後悔するぞ、と自分に言い聞かせ、物陰から学生鞄を武器に勢いよく飛び出した。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


「本当にうちの奴がすみませんでした!!!!!」


ん?????んんん?????


謝ったのは男達の方。今大橋さんの目の前で土下座しているのは男達の方。奇声を止め、再び冷静になった私はゆっくり物陰へと戻る。


「大橋さんには2度と手を出さないと誓わせましたが、どうにも女子高生に負けたと言うことが自分で許せなかったらしく……何度も言ったんですがどうにも止められず、許可なく……!!!」


と言って、中央の男の手から茶色の封筒が出てきた。


「どうか……これで許していただければ……!」


大の大人が女子高生に土下座し、封筒(多分中身はお金)を渡す姿を遠くから眺める私。この訳の分からない空間が誕生した。


「……」


大橋さんは茶色の封筒を拾い上げると、その場を後にした。

と思ったが、こちらをじっーと見つめる彼女の瞳には間違いなく私が映っていた。尾行を忘れ汗だくになって逃げてきた私は気付けば家の玄関前にいた。


このことがきっかけで私は高熱を出し、数日学校を休むことになった。そして、話は初めに戻る……

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