転生者を匿ったら指名手配犯になりました
壱足壱 葉弐
再転生者『人類の敵』
0 殺せ、されば生き残る
街中に鳴り響くサイレン。
いつの間にか日常と化したそれは、変わり果てた世界の象徴。
住民は避難を始め、専門家は入れ替わるようにその場へ向かう。
『目標確認。接近して、注目を惹いてください』
インカムから聞こえてくる本部からの指示。
戦場にいる私達を導く重要な道筋だ。従わない理由はない。
「了解。接近します」
私の役割は目の前で飛び跳ねる化け物をセンパイの元まで届ける事。
人間の形をしているが、能力を持ったあれはもう既に人間ではない。
接近すると、一台も走っていない道路を人の形をした化け物が爆走しているのが目に入った。
奴は転生者。人類の敵。
整備された道路が点々と吹き飛ぶ。これは奴の足跡。
強く踏み込み、幅跳びの様に飛ぶ彼らは、走るために地面を犠牲にする。
衝撃に耐えられない道路にはひび割れが残った。
「前方目標! 指定場所まで全力で誘導します!」
車のハンドルを強く握りしめる。
気合を入れるために息を吐くと、首にかかっているドッグタグが微かに揺れたのが分かった。
『狙撃準備完了』
「了解」
インカム越しに聞こえてくるセンパイの声。
残るは私の仕事のみ。
センパイの射程距離までこの化け物を連れていくだけ。
後方から聞こえてくる瓦礫の音。
化け物がすぐそこまで近づいてきているのを報告もないのにひしひしと感じる。
「走ります!」
呟きながら、アクセルを全力で踏み込む。
その直後、衝撃。
勢いよく走り出すはずの自動車は、その役目を全うすることなく宙に浮いた。
「くっそ……!」
大丈夫。
これは奴の着地の衝撃によるもの。
永続じゃない。
心を落ち着かせて、衝撃に備える。
直後、再びの衝撃。痛みと引き換えに車が動き出す。
「向かいます!」
真後ろにまで迫った転生者。
奴を殺さなければ我々に未来はない。
◇
――轟音。
飛来した弾丸は転生者の脳天を貫き地面に着弾した。
『目標殺害完了』
インカムから聞こえてくる声は今度は指示ではない。報告である。
慣れ親しんだセンパイの声に安堵しながら、言葉を返した。
「お疲れ様でした」
大きく息を吐く。
先ほどまで命を預けていた車体に今度は体を預けながら、死体を眺めた。
大丈夫。きちんと死んでいる。奴に蘇生機能はない。
『そっちこそお疲れ様。お手柄だ、堀口。帰るぞ』
「了解」
私は人間。敵は転生者。
私達の仕事は転生者を殺すこと。
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