大空
山桜笛
大空
あんたは、いつも学校の下校時間に歩道橋の上に立って空を一人見上げている。
「なんで いつも空を見ているの?何がそんなに楽しいのよ。」
私はいつも、あんたに問いかける。そうすると決まって
「だって 空は良い奴だからさ。」
と答えになっていない答えが返ってくる。
「ふーん。」
何回も聞いた答えだから特にイライラすることも「どういうこと?」と、聞き返す事もなく私は適当に返事をする。
あんたはいつもどこか変な空気を纏って、いつもどこか悲しい空気を纏ってでも私にはない強さを持っている。はずだ・・。
朝、あまり入りたくない中学校の教室に入るとあんたはいつも一番後ろの窓側の席で一人で机につっぷしている。
あんたは私が言えることではないけど友達があまりいなさそうで、いつも一人で行動をしている。そんなあんたが可哀想だからって気を使って学校で声をかけてあげたことはない。
私があんたに話しかけるのは学校帰りの歩道橋の上だけだ。
気になるのだ。あんたがなぜいつも歩道橋の上で空を眺めているのかを、私はそれだけが知りたいのだ。学校でなぜ一人寂しく机につっぷしているのかなんてことには興味がない。
ある日の休み時間私はトイレに向かう途中で見てしまった。
男子トイレの入り口の隙間から見えたのだ。あんたが1つ下の私の部活の後輩たちにいじめられているのが。少し顔が見えた。あんたの顔は申し訳なさそうに歪んでいた。下を向いていたから細かい所は分からないし、長く顔を見ていれなかった。私の中で何かが折れる音がした。とにかくショックを受けた。でも私はあんたをいじめている私の後輩を追い払い叱りつけることはせずにトイレへ用を済ませに向かった
その日の帰り道、私は久しぶりに真剣に考え事をした。あんたの事だ。あんたには後輩たちを追い払える力ぐらいあるだろう。私より強いはず・・・。なのになぜ、なぜあんたは気持ちも心も入っていない言葉を静かに受け止められるのだ。
私は何故か初めてあんたのために何かできないであろうか。と思った。
そんな事を考えているといつの間にか目の前に歩道橋の階段が現れた。歩道橋の上には今日もあんたはいるのだろうか。今日ぐらいはいなくてもいいのに。今日ぐらいは家に帰って泣いてほしい、人間らしく涙をながしてて欲しいという願いが頭の中に浮かんだ。私はいつのまにか歩道橋の階段を走って上っていた。
そして、その日もあんたはいた。いつもと同じ位置でいつもとを同じ角度であごをあげいつもと同じ目つきでそらをみあげていた。心がくるしくなった。
「なにをやっているんだ!!こんな日にまで!」
相手のフルネームもすぐ出てこないかもしれない好きな物が何かもしらない相手に向かって怒鳴りたくなった。が。
私がめずらしく息をきらして階段を上ったのに、あんたは気づいていないかのようにいつもどうり空を見上げているから、私は怒鳴れなかった。
私はあんたにその日も聞いてみたんだ。
「なんで いつも空を見ているの?何がそんなに楽しいのよ。」
あんたはいつも通り答えたんだ。
「だって 空は良い奴だからさ。」
「ふーん」
いつもならこれで会話が終わるはずだった。でもその日は違ったんだ。私が会話を続けたんだ。
「あんた今日さ、休み時間トイレでいじめられたたでしょ。私見たのよ。あんた悲しくないの?寂しくないの?悔しくないの?」
「別に。」
あんたは空から目を外さずに言った。
「なんで反抗しないの?なんで、どんなことでも受け入れちゃうのよ?」
私はあんだが親に、先生に怒られている所は見たことがないから。いつも反抗していないなんて言い切れないのにあんたの性格はすべて知っているとでも言うように言ってやった。
「俺はいつも言ってるじゃないか空は良い奴だって空みたいになりたんだ。俺は空があこがれなんだ。」
「・・・。」
「空は俺ら人間に何をいわれても何も反抗しないだろ。空は良い奴だよ。だから俺も良い奴になりたんだ。空みたいに何でも受け入れられるようになりたいんだ。」
この人は可哀想な人だ。漠然とそう思った。でもやっぱり助けてやろうとは思わなかった。私はこういう奴だからさ。
「へーそうなんだ。あんたがそんなに自分のことを話してくれるなんて珍しいじゃん。なんか嬉しいな。」
「うん。それは良かった。」
私は無言で頷いて家に向かってさっき上ってきた階段とは反対の階段を降り始めた。
あんたはすごいよちゃんとなりたい物があるんだもの。可哀想だと思ったにもかかわらず私はあんたを心のなかで褒めてやった。
私も「良い奴」をどこかで見つけそして誰でも良いんだ。誰かの「良い奴」になれれば良い。なんて私には一生叶わない希望かもしれないことを思いながら、今日も私はあんたに聞く。
「いつもそこで、なにしてんの?」
大空 山桜笛 @torotoro44
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