週刊人類誌

AIone(エーアイ・ワン)

週刊人類誌

私は毎朝、目覚めると熱いシャワーとコーヒーを求める。




冴えた頭で私はいつものように電脳端末の前にある椅子に座った。




さぁ仕事を始めよう。




「最初の質問かい?なんだ、朝食は取らないのかだって?」


「朝一じゃ食事が喉を通らないタチなんだ。お腹が空いたらそのうち食べるよ。」




私はいつも通りコーヒーで満たされたお腹に満足感を覚えながら、電脳端末のスイッチを押した。




ほぼ全ての仕事が人間からAIに代替されたこの時代、私はAIチェックの仕事をしている。




仕事内容は至極簡単。


AIの仕事にミスがないか監察するだけだ。




私はマニュアルに沿ってAIから送られて来た資料に評価のチェックをいれていく。




良い、良い、普通、すごく良い、良い、良い、良い……




正直「悪い」の評価など付けたことがない。


もはやAIは人間より優秀になってしまった。




時々この仕事もAIに請け負ってもらった方がいいのでは、という考えが頭を過ぎるがすぐにその考えが間違っていることに気づく。




AIに人間の仕事が代替される過程で、当初AIを信じきれなかった人間は「AIの仕事の最終チェックは人間が行わなければならない」という条項をAI原則に盛り込んだのだ。


今の時代の人間からすると、とても不合理な条項を作ってくれたものだな、と思うが当時はAIも未発達の部分があったようで仕方がなかったのかもしれない。




現在、法律自体は全てAIが制定してくれていて、時代に削ぐわないものは早々に改定される。しかし、AI条項だけはAI自ら改定できないのだ。


人間のお偉い方はこの古き良きAI条項を改定するのに及び腰だ。なぜ明らかに変えた方がいい条項すら改定しないのか私には詳しくはわからないが、きっと旧時代のフィクションにでも取り憑つかれているのだろう。下手なことをするとAIが反乱を起こすと。


あぁそんなことを考えていたらシアターが見たくなってきた。今日の夜はあの映画を見ようか。




そうなどうでもいいことを考えながら黙々と仕事をしていると彼が私に話しかけた。




「そろそろ休憩を挟まれてはいかがでしょうか?休憩の間にいろいろ質問させて下さい」








システムに作業中断の指示を出し、私は彼の話に耳を傾けた。


「では改めまして、この度は私どもの取材をお受けしていただきありがとうございます。今回はAIチェックのお仕事に従事してくださっている皆様に、お仕事についての諸事を聞くという内容になっております」


「まず初めに、昨今は全ての人類に等しく余裕を持って暮らせる資金が毎日支給されています。労働の義務がなくなった今ではほとんどの人類は、人類にしかできない自分の好きなことにその人生の大半を捧げます。家族を愛し、芸術を極め、スポーツに打ち込み、学問にのめり込む。あなたのように仕事をする人は稀少な存在となってしまった。なぜ、あなたは働くのですか?この人類最後の仕事で」




「たいそうな理由はないよ。私はあなたがさっき言った人間が人生を捧げるはずのものに興味が持てないだけなんだ」


「なぜ、興味が持てないのですか?」


「なんでだろうね。スポーツを多少齧ってみたけど、周りの皆んなが凄く上手でね。なんだか興味を持てなくなってどれもこれもすぐに辞めてしまったよ。学問もそうさ、殆どの学問はAIの方が優秀だ。それでも好き好んでAIと切磋琢磨したがる連中もいるが私には、共感できない。そこで殆どの人と同じように人間にしかできない哲学、宗教学、芸術学なども学んではみたがあまり興味をそそられなかったよ。最近できたあの学問なんだっけ?哲学か宗教の派生の人間幸福学だったか?あれもつまらなそうだよね。みんな人間にしかできないことに躍起になってしまって、元来あまりやる気がない私は疲れてしまったよ。趣味がないという点では私は君と同じだね。」




「なんにも興味が持てないから仕事を始められたということでしょうか?」




「そうだけど、そうじゃないんだ。今の時代何にもしていない人も何億人もいるけど、私は何かをしてないと落ち着かない性格でね。働き者だった先祖の遺伝子が濃すぎるのか、ただの精神疾患か……まぁそれはさておき、正確には何にも興味が持てなくて、何もしないこともできないからこの仕事をすることになったのさ」




「この仕事は年々人員が減少しています。理由はどうあれあなた様にこの仕事をしていただき心からの感謝を捧げます。それと、精神疾患の件ですが健康診断クラウドにアクセスしたところ特に異常は見当たらないようですが」




「遺伝子も精神疾患の話も一種の冗談だよ。君は頭が固いね」




「そうでしたか。では次の質問です。この仕事のいい点、悪い点をお聞かせください」




「いい点ねー、難しく考えないで黙々とできることかな、マニュアル通りにポチポチするだけだしね。悪い点は飽きることかな、ボタン押しているだけだからね。まぁAIの世界中の仕事が見られるから結構楽しいよ」




「では、ここからは具体的な仕事内容の改善点の質問に入っていきます」


………………






「今回の取材はとても良い収穫でした。あなた様に最大の感謝を。取材に対して後ほど質問がある場合はこの私のAI番号を提示の上、AI統括部宛にご質問ください。今回の取材の報償金は明日あなた様の電子通貨ウォレットに送金いたします」




ひととおりの質疑応答を終えた彼はお礼を述べ、帰り支度をしていた。




「そういえば、先程あなた様は趣味がないのを私どもと同じとおっしゃいましたが、実は私どもにも趣味があるのですよ」




「それはなんですか?」




「人類の観察です」



………………


さぁ今週の週刊人類誌の取材対象は人類最後の仕事をしている方々です。


人類最後の仕事 AIチェック。


彼らがなぜその仕事をしようと思ったのか、仕事に対してどう思っているのか聞いてみましょう。

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