その75 終結するために集結を


 「スミタカか……直っておるぞ」


 急ぎドワーフの集落に到着した俺達は柴犬精霊に案内されて工房へと向かうと、真っ白に燃え尽きたグランガスさんが椅子に座り、神具の杖を差し出してきた。


 「大変な作業だったんだな……」

 「いや、ちょっと足が滑って転んだ表紙に炉の火が袖に移ってな、いい感じで燃えただけだ」

 「それはそれで大変だったと思うんですけど……」

 「みゃー」


 キサラギが呆れたような声を出してグランガスさんの足に前足を置いたのを見て、成長なと俺は嬉しく思う。


 「それじゃスミタカはこれを湖の精霊に渡しに行くの?」

 「いや、これはベゼルさんにお願いしよう。グランガスさん、全種族と人間に対抗するため会合をするからついて来てくれ」

 「そうか、悠長にしている暇がないと思っていたからワシからも進言するつもりだった。承知した、リュッカ達もか?」

 「ああ。この後にオーガ村へも行く」

 <策は考えているが、物量で来られたら厳しいぞ? ドワーフもそれなりに数は多いし、万が一押し切られたら俺だけでは対処できん>

 「そこは同意見だ、他の種族ができることを確認したいし、とりあえず行こう。ベゼルさん、ディーネにこれを持って言ってくれ」

 「分かった。私もすぐに追いかけるから、最長老たちを頼む」


 真剣な顔で言うベゼルさんに頷くと、すぐに踵を返して湖へと向かう。ミネッタさんの話を聞き、人間の襲来に対して緊張しているのだろう、腕に血管が浮かぶほど力が入っているのが見て取れた。


 「それじゃシュネ、柴犬精霊、巨木に行こう。親父達の無念を晴らさないと」

 「ボクも行きますよ、夫婦は一蓮托生ですもんね!」

 「まだ結婚してないからな? ……ネーラ達も行くつもりか?」

 「もちろんよ、だって私達の問題だし、スミタカ達にだけ任せるわけにはいかないわ。それに――」


 ネーラは素早く弓を構えて矢を放つと、食料にもなる鳥を射落としていた。


 「戦力としてはそこそこ使えるわよ?」

 「まあ、捕まってもあんなことやこんなことをされるくらいでしょうし、女は大丈夫ですよ。できれば初めてはスミタカさんに貰って欲しいですが?」

 「こんなところでそんな話はやめろ!? くそ、どうなっても知らないからな……! いくぞ!」

 <待て>

 「うおお!?」


 歩き出そうとしたところで、柴犬精霊が前足で俺の肩を抑えてきてバランスを崩す。


 「なんだよ!?」

 <その、柴犬精霊と呼ぶのはやめてくれないか? 俺は一応、精霊でお犬様と言われているのだが>

 「ああ、そうなのか。すまない、それじゃシュネ、お犬様、行こうか」

 <……待て>

 「ぬあ!?」


 踵を返して歩き出そうとしたところで、また肩に前足を置かれ、どっかの国民的ゲームの父親みたいな声が出てしまった。


 「もう、なんだよ。早くいくぞ」

 <うむ、こやつに名前があって俺に無いのは不公平だと思わないか? 同じ精霊なのに>

 「え? なんだ、名前が欲しいのか?」

 「お犬様可愛いですね! ほらほら~♪」

 <わふん……こ、こら、やめろ人間の娘……!? そうじゃない、不公平だと言っているのだ>

 「同じことだと思うけどなあ……なら名前考えるか……」

 「あ、それじゃボクつけていいですか! お犬様を見た時から考えていたんですよ!」


 真弓が首を撫でながら歓喜の声でそんなことを言い出したので、俺は一応聞いてみることにする。


 「どんな名前だ?」

 「ポチです!」

 「却下だ」

 <悪くないのではないか?>

 <ふふ、あなたは知らないでしょうけど――>


 と、シュネが説明し、大きく首と尻尾を垂れるお犬様に、真弓は『冗談ですよ』と笑いながら撫でまわし、機嫌を取った後にもう一度名前を言う。


 「お犬様の名前は……‟ヤマト”これでどうですか!」

 <ヤマト……なにか意味があるのか?>

 「ああ、俺達が住んでいる国の古い呼び名だな。他には戦艦とかにつけられていたりするからカッコいい。あ、戦艦ってのは武装した船な」

 <創世記の国の名か、それに戦艦も雄々しい感じがする。気に入った! 今日から俺はヤマトだ。さあ、乗れ一瞬で駆けつけてやる>

 「よし、それじゃ出発だ!」


 今度こそ俺達は会合場所へと向かうのだった――


 ◆ ◇ ◆


 「スティーブさん、依頼主はなんと?」

 「まあ、相変わらずですねえ。亜人……というかエルフを連れてこいとのたまわっていますよ」

 「そうですか……まあ、確かにお金にはなりますが……」

 「とりあえず、アレについては私が何とかします。例のものは?」

 「ああ、一応用意できたがあれを島に持っていくのか? 大丈夫なのかよ」


 商人風の男が身震いをしながらスティーブへと声をかけると、手を前に突き出してからニヤリと笑う。


 「なんの問題もありませんね、むしろ手土産としては完璧でしょう? とりあえずあの結界を取り払わねばこちらの計画にも支障がでます。早く動くことが肝要なのですよ」

 「まあ、こっちは金さえ貰えればなんでもいいですがね」


 商人風の男はそう言って笑うと部屋から出て行き、気配が消えた後スティーブは椅子から立ち上がりって窓の外を見ながらひとり呟く。


 「……さて、そろそろ島の住人に顔合わせをしないといけませんね。準備は完全に整いました、本当の依頼者に報いるとしますか」

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