その74 ミネッタのこと
「なんと、確かに覚えておるぞカイリとスミカ……はぐれてから無事を確認する間もなくこっちへ来てしまったから、捕まってしまったものかと思っておったが……」
「わしらにそっくりじゃ……」
「これはスミタカさんが間違えるのも無理はないわねえ……」
俺と真弓はエルフ村へ立ち寄り、二人の遺影をミネッタさんに見せると涙を流しながら写真を抱きながら話を続ける。
ウィーキンソンさん夫妻も遺影を見て驚愕の表情をして、俺の顔を見ながら
「……わしがこの姿のまま三千年も生きているのは人間のせいなのじゃ」
「どういうことですか?」
「ネーラよ、他のエルフは千年そこら生きるかどうかなのに、わしだけこの姿なのはおかしいとは思わんか? フローレよりも子供っぽい体をしておる」
「え? なんで引き合いに出されたんです……?」
軽くディスられたフローレを無視し、ミネッタさんは恐ろしいことを口にする。それはミネッタさんが人間と戦わず、エルフを逃がしたことに繋がる。
「あやつらは不老の術を研究しておったのだ。不死ではなく不老……人間はすぐに老いがくる、死ぬことを拒否することはできぬが、それを遅らせようと長寿であるエルフを捕まえて研究をしたのじゃ」
「もしかして最長老が……!?」
「うむ」
「あ!? ひ、酷い……」
「そんな……」
ベゼルさんが驚いて声を上げると、ミネッタさんは服をめくりお腹の部分を見せて、真弓達が呻くがそれも無理はない、身体には無数の傷跡や火傷の痕があったからだ。
「それは……?」
「うむ、いわゆる『実験体』というやつじゃ、長寿の秘密はこの体にあると見た一部の貴族が秘密裏にエルフを攫っていたことがあってな……森で遊んでおったわしは攫われ、身体をいじられた。おかげで成長が止まり、何故かまったく寿命が来なくなったのじゃ」
「そんなことがあったのか……しかし、どうやって逃げてきたんだ?」
「寿命じゃよ。皮肉なことじゃが、わしを調べている間に関わった人間は全員逝った。成果はなにも得られないままな」
そもそも人道的でない実験ということもあり、貴族達も負い目を感じながらやってた
そこから一年ほどで誰も居なくなった施設から逃げ出したミネッタさんは元の森に戻ったそうだが、すでにエルフは土地を変えていて居なかった。
なんとか違う集落に辿り着いて生活していたところに、亜人狩りが始まったのだそうだ。
「……泣くな、お前達。これでも生きてこうしていられることは幸せじゃと思うしのう」
「それでもだ……」
親父と母さんの話を聞いたすぐなので俺も涙が止まらなかった。そんなことがあったら、人間を磔にするくらい警戒するのも無理はない……と、思う。
しばらくお通夜みたいな空気になっていたが、またエルフ達には危機が迫っていると、皆に声をかける。
「……よし、すぐにドワーフ達のところへ行って神具の杖を受け取るぞ。その後は各村の代表を集めて話合いをする。水路よりも先に人間達をなんとかしないと!」
「そうね、絶対この島は荒らさせないわ」
「まずは先に上陸している人間を捕虜にしましょう」
フローレが物騒なことを言うが、それも一つの手だと頷いて答え、善は急げと行動を開始。シュネとミネッタさん、それとウィーキンソンが招集をかけるため奔走することにし、島の中央にあるひときわ大きな木がある広場に集合するようにドワーフとオーガ達に伝えてくれと伝言を受けて二手に分かれた。
「マユミはお仕事、大丈夫なの?」
「はい、今日から連休なのでしばらくはこっちに居れますよ!」
「人間との争いなので、お二人を巻き込むのは少々心苦しいですが」
「言うなフローレ、両親の同胞を助けるのは俺の役目でもあるしな」
俺と真弓、ネーラとフローレ、ベゼルさんと数人のエルフを引き連れてドワーフの集落へと向かう途中、若いエルフが不安げな顔で聞いてくる。
「人間……勝てるでしょうか? 我等亜人をかき集めても人間の数はそれ以上……」
「いや、この島に上陸されるまえになんとかすればいい。船で渡ってくるだろうけど、規模によっては上陸人数も限られるからそこを狙おう」
策が無いわけじゃない、こっちには近代の道具と知恵があるからそれを利用しない手はない。だが、心配ごととしてはこっちの人間がどれほどの文明レベルなのか、だ。
三千年もあれば相当な文明を築くことができるのは俺達の世界で証明済み。たかだか二千年で核兵器まで作れているのだ、こっちだってそうかもしれない。
「……やっぱり、フローレの言う通り島に居る人間を一度捕えてから聞き出すのがいいか」
「拷問ですか!」
「なんで目を輝かせてるんだよ……ま、そうならないことを祈りたいがな」
時間との戦いだと俺達は足を速くし、先を急いだ――
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