その71 精霊と人間


 <ふん、足の速さは相変わらずだなネコよ>

 <シュネだって言ってるでしょ? あんたも名前つけてもらったら? マユミにでも>

 <……人間を信用できるか>


 シュネと柴犬精霊はドワーフの集落からさらに北を目指して森を駆け抜けていた。目的地は最北端で、エルフ達が上陸した周辺の調査をスミタカに頼まれたからである。


 <スミタカ達はこっちの人間とは違うわ、いいじゃない私より可愛がってもらってたし>

 <あれは魔性のモフりだ、意識を一瞬で持っていかれる……>


 柴犬精霊が苦々しい顔で呟くのを、シュネが微笑みながら並走する。

 本気で走った二匹の速度は恐ろしく速く、人の足で三日はかかる距離を一日で到着し、エルフ達が漂着した大陸の端へとやってきた。


 <特に何もない、か?>

 <……! 待って、木の上へ行くわよ>

 <む>


 シュネが耳を動かすと、焦ったように口を開いてふわりと体を宙に浮かして木の上へと着地。そこからある場所へ眼を向けると――


 「どうだ、結界は?」

 「ああ、ちゃんと中和できているぜ。まったく、人使いの荒い……まだ亜人たちは生きていると思うか?」

 「結界が生きていて、先日強力になったってことはまだ精霊が生きているんだ、期待できるだろ」

 「エルフの一人でも捕まえりゃ大金持ちか……でもスティーブさんは別の考えみたいだし、どうしたものか……ま、拠点を作ろうぜ」

 「だな。他にも人間を呼ばないといけないしな、どうもこの土地――」


 そこまで聞いてからシュネと柴犬精霊は木の上から移動し、大急ぎで村へと駆けだす。


 <まさか結界がああもあっさり破られているなんて……!!>

 <ああ、かなりまずい。 ……あいつらを野放しにしたくないが、まずは各村に報告をせねばならん。お前はドワーフの集落へ行ってドワーフとエルフ、それとスミタカへ報告を頼む。俺はノームとホビットのところへ行ってくる!>

 <分かったわ!>


 またあの惨劇が繰り返されると恐怖を感じながら二匹は散開すると急いで目的地を目指す。


 <……まいったわね、このままスミタカが平和に島を良くしてくれると思っていたのに。あの二人を巻き込みたくないけど――>


 シュネはそう呟きながらさらに速度をあげ、出かけた時よりも速く戻ることができた。


 「おや、シュネ様! お早いお帰りで」

 <挨拶は後。スミタカ達は?>

 「まだ戻って……あ、いや、戻ってきましたよ」

 <良かった! スミタカ!>


 ◆ ◇ ◆


 <スミタカ!>

 「あれ、シュネじゃないか。もう終わったのか?」

 「みゅー♪」

 「みゃー」


 母親に手を伸ばす子猫たちを背中に乗せてやるが、シュネは焦りを含んだ声で俺達に言う。


 <グランガスも聞いて、昨日からスミタカに言われて亜人が漂着した場所に行っていたの>

 「そんなことを頼んでたのか……?」

 「ああ。……それで?」


 いつも穏やかなシュネが、子猫たちを乗せたまま緊迫した表情で俺の頼みごとについて話し出したので、俺は真面目に聞き返す。


 <……人間が上陸していたわ。結界を中和する魔法かなにかを使って島の内部に入り込んでいたの。エルフを捕まえるみたいな話をしていたから早く手を打たないとまずいことになるわ>

 「「「な!?」」」

 「……」

 「やっぱり……」


 ネーラやフローレ、グランガスさんにリュッカが激しく動揺をみせる中、俺と黛は難しい顔でそれを聞いていた。

 今でこそシュネが復活しているが、結界は弱まっていたし、三千年もの間『美味しい餌』である、特にエルフを放っておくはずがないと考えていた。

 そのためどこに行っても痩せている土地がもしかしたら外部の仕業ではないかと考えたので、シュネたちに島の確認を依頼したのだ。

 最先端は人間の居る大陸に一番近いとのことだったので、まずはそこを見に行ってもらったんだがどうやらビンゴだったようだ。


 「とりあえずミネッタさん達に話をしよう、グランガスさん、ムーンライトと杖を預けていいか?」

 「お、おう、任せろ! ドワーフには俺から話しておくぜ」

 「俺も行ったん村へ戻る。またな!」


 リュッカも大急ぎで村へ戻り、俺達もエルフ村へと帰路についた。

 ……攻められたら勝てる気がしない、攻撃は最大の防御といくべきか? 俺は考えを巡らせながら速足で進むのだった。

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