その49 ご近所トラブル?
園田という男とのいざこざから早一週間が経過していた。
子ネコ達はミルク以外の食べ物に慣れ、以前より元気になった気がする。親猫のシュネはお金がかかることを知っているのか、二日に一回くらいの訪問で収まっていた。
エルフ村の収穫などが気になるので異世界にも行きたいのだが住人トラブルがあって時間とられてしまい、この三日は仕事に追われていたりする。
おかげで、ということもないけど俺は仕事で疲れた体を子ネコ達と黛で癒す日々が続いていた。
「みゃー」
「キサラギはもう食べたのか? よく噛んで食べないとお腹壊すぞ」
「げぷ」
俺の言葉にげっぷで返すキサラギを仰向けにし、お腹を撫で回してやるとじたばたしながらシャーシャーと威嚇してくる。俺がいじめていると思ったのか、コテツが俺の手に前足でぎゅっと抱き着くと恐る恐る鳴く。
「みゅー……」
「大丈夫だコテツ、いじめているわけじゃないって。ほら、お前もわしゃわしゃー」
「みゅー♪」
コテツは大人しくお腹を撫でさせてくれ、キサラギも撫でろと前足で叩いてくる。いつもの平和な朝だが、今日もトラブル解決のために奔走しなければならず、黛も休みだというのにエルフ村へ行くことはできない。
これが自営業の辛いところだが、とりあえず黛も同行してくれるため準備をして待っているところである。するとちょうどそこで訪問を告げるチャイムの音が聞こえてきた。
「来たか」
「みゅー」
「みゃ」
俺は子ネコを籠に入れ、荷物の入ったカバンを抱えて玄関へと向かう。
「おはようございます先輩! あ、コテツとキサラギもおはよう。すぐ行く感じですかね?」
「ああ、すまないな休みのところ」
「大丈夫ですよ、土日が休みってわけじゃないのは承知していますしね! トラブル、大変なんですか?」
「まあ、今日で終わると思うけど……な」
「?」
トラブル、というのはよくある騒音トラブルというやつで、以前挨拶をされた染井サクラ、という人の隣に住んでいた人が夜、騒いでいるのだとか。
住人は普通の二十代夫婦……のはずだが、どうにも別の人間の声が聞こえてくるという話だった。
とりあえず管理会社の杉崎さんと数日訪問をしてみたが、昼間は留守なのか返事が無かった。
夜になるとやはり怒鳴り声が聞こえてくると相談され、今日は警察と共にマスターキーを使って部屋に入る予定なのだ。
「お前は車で子ネコと待っていてくれよ?」
「はーい! でも、本来の借り主じゃないくて全然知らない人が出てきたら……怖いですよねえ。そして中には遺体が……」
「そ、そんなこと言うなよ……部屋が借りられなくなっちまうだろ」
「みゅー……」
せめて生きている人間が居て欲しい……。
とはいえ、杉崎さんの話だとおっとりした夫婦でトラブルになるような夫婦ではなかったと聞いている。
「ま、行ってみるしかないか……」
「大家さんは大変ですねえ。早く終わらせてネーラ達のところへ遊びに行きましょう? 他のエルフ村にも行きたいですし」
「だな」
そんな会話をしながら車を走らせる俺達。
シュネはウチに来るので状況は分かる。向こうは平和そうだし、とりあえずこっちを片付けるかと俺は気を引き締めて現地へと向かう。
そこにはすでに杉崎さんと警官が数人居て、俺の到着を待っていたようだ。
ちなみにこれは杉崎さんのアイデアだけど、警察がいる理由は騒音が軽犯罪法に引っかかるからで、他の住民も迷惑に思っている、かつ、警察に相談をした上で注意を聞かない場合、最悪逮捕が可能なのである。
故に、証人としての部分と事後のためを担うため呼んでいる。
「すみません、遅くなりましたか」
「あ、来たね住孝くん。そちらは……?」
「おはようございます杉崎さん。今日はよろしくお願いします。えっと、この子は俺の彼女で、黛と言います」
「よ、よろしくお願いします」
「みゃー」
「みゅー」
照れながら頭を下げる黛に、子ネコも一言鳴いて挨拶をしていた。すると当の杉崎さんは俺の顔を見てガクリと膝をついた。
「ど、どうしたんですか!?」
「ま、まさか住孝君がこんなに早く彼女を作るなんて……! ウチの娘を嫁がせて息子にする計画が……」
そんなことを考えていたのか。そういや前行った時、未来ちゃんについて色々言っていたことを思い出す。
「先輩……?」
「そんな目で見るな。俺は無実だ」
「まあ、そうですよねー。先輩そんなに器用じゃないですし」
「うう……すまない未来……お父さんがふがいなくて……」
「いや、未来ちゃんには悪いけどそんな未来は無いですよ」
何故か慰めることになった俺達に、苦笑しながら警官が話しかけてくる。
「はは、面白いですね。えっと、あなたが永村さん……大家さんですね?」
「あ、はい。すみませんお呼び立てして。よろしくお願いします」
「ええ。それじゃ行きましょうか」
警官は帽子に指をかけながらお辞儀をすると問題の部屋へと向かい、俺達は黛を置いて後を追うのだった。
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