その33 考えるスミタカ


 「さて、それじゃ仕事に行きますかね……」

 「みゅー♪」

 「みゃー!」


 サッと仕事着に着替えた俺は、二匹を連れて車を走らせていた。シュネ曰く、自分の背に乗って移動しているからそろそろ車にも慣れるはずだという話を聞き、とりあえず病院に連れて行った時に使った籠の中に入れている。


 「みゅー」


 籠の中で二匹とも大人しい。時折、顔を覗かせて籠のふちに首を乗せて鳴くコテツが可愛い。キサラギは興味がないのか、丸まって寝息を立てていたりする。妹猫は動き回れないとご不満のようだ。

 そんな感じで、アパートに到着した俺はいつものように巡回をする。特に異常がないので、親父がしっかりやってくれていたのと、住人がいい人ばかりで助かると改めて思う。

 

 「こんなもんかな。後は帰って杉崎さんからの書類を確認すれば今日は終わりだ」


 本日最後の巡回が終わり、車で遅い昼食を取る。コンビニのパンとコーヒー、それとスナックなチキンを口にしながら昨日のことを考える。あ、子ネコのミルクは移動中にあげている。

 それはともかく――


 「うーん、ログハウスはちょっと残念だったけど、畑は上手くいったのは良かったな。それでも成長率は異常だけどな……それにさっき重いものを持ちあげたけど、向こうの世界みたいに持ち上げられなかったから向こうの世界限定の力みたいだな」


 先ほどブロックを片手で持ち上げてみたけど超人的な力は出せなかったので間違いないだろう。それと畑も肥料はこっちの世界のものを使ったのであのような結果になったのだと思う。

 それ自体はいいと思うし、エルフ達の生活が潤うなら色々と持ち込むのもアリだろう。


 「だけど、俺の貯金にも限りはあるし、あんまりやりすぎるのは良くない気もするんだよなあ。お前はどう思うよ」

 「みゅー」


 抱っこしたキサラギはジタバタしながら抗議の声を上げるばかりだった。キサラギばかりずるいといわんばかりに俺の膝にコテツが乗ってくる。


 「みゅー」

 「はは、まあ考えても仕方ないか。とりあえずエルフ達の生活向上できるよう手伝うとしよう」


 そう決めた俺は早速ホームセンターに向かう。

 今朝ブックマークをしたブログには特に栽培について色々書かれていたので、肥料の追加と野菜の種類を増やそうという計画だ。


 「……二万円まで使う。金額を決めておけば大丈夫なはず……」


 使いすぎは良くないのでお小遣いは決めておこうと思う。野菜は収穫したら俺もらうつもりなので、一か月にいくら使うか考えておこう。どうせ結婚もしてないし彼女もいない。村を発展させるのはちょっとゲームっぽくて楽しいしな。


 「えっと……大根とスナップエンドウがいいのか。それとほうれん草は収穫が早い、ね。かぼちゃってエルフ食べるかな?」


 確かによーく見てみると園芸コーナーに苗が売っていた。これなら種からよりも早くできる――


 「って、種からでも一日でできたか。ま、分かりやすくていいか」


 次に肥料を買い、水をためて使う散水ホースも購入。そういや水ってどこから汲んできているんだろうな? 畑にはひしゃくみたいなやつで撒いていたけど、井戸みたいなのは見当たらなかったな。

 カートに詰め込み、車に残した子ネコ達が心配なのでさっと買おうとレジに向かっている途中、興味深いコーナーが目に入る。


 「キャンプ用品か……」


 俺の趣味であるキャンプ。その道具がずらりと並んでいるコーナーで立ち止まり、ふらふら入ってしまう。


 「お、LEDのランタン……新しいやつだ。コッヘルもいいなあ。あ、俺の家に蚊帳をかけるか? こ、ランタンを吊り下げて……雰囲気は欲しいからあえて燃料のやつを……」

 

 炭も欲しいな……よく考えたらエルフ村ってキャンプ場みたいだから、ちょっと息抜きするのにあの小屋……いや、家は落ち着くかもしれない。そうと決まれば……!

 

 「ありがとうございましたー」

 「ぐ……か、買いすぎた、か?」


 俺は車に運び込むためカートを借り、ガラガラと押していく。だが、肥料など重いものもあるので中々の重量だ。


 「まあ、キャンプ用品くらいは余裕で乗るだろ」


 そう呟きながら車の後ろに詰め込もうとハッチを開けた時、それは起きた。


 「みゅー♪」

 「あ!?」

 

 俺の気配を聞きつけたコテツが、開けた瞬間飛び出したのだ! 平日の昼間とはいえ、駐車場には車が行きかうので轢かれてしまう可能性が高いので俺は慌てた。


 「みゃー」

 「おっと、お前まで飛び出たら困る」

 「みゃー!?」


 後を追おうとしたキサラギが飛び出るのを阻止し、俺は左手に抱えて飛び出したコテツを追う。


 「どこ行くんだ!?」


 珍しく元気に走っていったその先には――


 「え? あれ? もしかして?」

 「なんだその猫は?」

 「よ、良かった、すみませんウチの猫なんです」

 「あ、先輩! こんなところで奇遇ですね!」

 「あ、黛!?」


 ――そこには、スーツを着た黛がコテツを抱いて立っていた。

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