その6 油断ならない相手
自称エルフ女が放った矢は咄嗟に閉めた勝手口に当たり、俺は難を逃れた。その後、小さくうめき声が聞こえた後は外が静かになり、俺はしばらく勝手口の裏で座り込んでいたが扉が押されると言ったことも無く、静かなものだった。
「……諦めたか?」
しかし足音が聞こえないためここから立ち去ったとは考えにくい。鍵をかけて放置が一番だが、破られても面倒だ。
それに――
「見事な金髪で耳がとがっていた……コスプレにしちゃリアルだ。裏庭の異変について何か知っているかもしれない、か? お前たち、ちょっとそこで待ってろよ」
「みゅー」
「みゃー」
――と、俺は子ネコ達を遠ざけてからもう一度ゆっくり勝手口を開けて様子を見る。するとそこには見事な開脚を見せながら気絶している女が、居た。
おでこが赤くなっているところを見ると、恐らく弾かれた矢がヒットして意識がとんだというところだろう。
「さて、どうするか……」
とりあえず武器を遠ざけてから起こすのが最善かと近づいていくと、裏庭より少し外側の茂みがガサガサと揺れた。
「……!? な、何か危険な動物でもいるのか……?」
本来なら斎藤イツァールさんの家が見えるはずの裏庭が森になり、先日と今日の二回とも同じ光景だ。推測だけど、この勝手口が何らかの理由で知らない場所に繋がっているに違いない。
日本には違う世界の入り口と呼ばれる場所が多数存在する。それが本当かどうかはともかく、『ある』と言われるくらいなのだからそういうものなのだ。
だからこの勝手口も『繋がって』いるが、いつかもとに戻って消えてしまうと思う。
「と、とりあえず家の中へ……」
俺はサッと女性を抱え上げると、勝手口の扉を閉め、施錠できたことを確認してリビングへ戻る。足元では子ネコ達が興味深げにウロウロしているので踏まないよう慎重に移動し、ソファへ女性を寝かせた。
「弓矢に剣か……本物だな、銃刀法に余裕で引っかかる長さだし……」
とりあえず回収して親父の部屋に置いておくことに決め、リビングから戻ってくると、子ネコ達が女性に群がりみゃーみゃー鳴いていた。
「こらこら、寝ている人を起こすんじゃない。頭を打ったかもしれないから安静だ。俺が飯を食ったら遊んでやるからな」
「みゃー♪」
三毛猫は嬉しそうに俺の足をよじ登ろうと頑張り、サバトラはまだ女性の頬をぺちぺちと叩いていた。一旦ケージにでもいれるかと思ったその時、女性の目がパチッと開く。
「お、目が覚めたか。痛いところとかは無いか?」
「……!」
俺がにこやかに声をかけると、金髪の自称エルフはソファの上で身構えると、腰に手を当てる。しかし、そこにあるはずの剣は俺が回収したので指がわきわきしているだけだ。今度は背中に手をやるが、もちろんそこに矢はない。そこでようやく自分が丸腰であることを理解し、青ざめた。
そして――
「うわあああああん! 人間に捕まったぁぁぁぁ! 一族の恥……いいえ、もうダメ……人間に捕まったら最後、辱めを受けて一生慰み者になるのよぉぉぉぉ!!」
「お、おい、俺はそんなこと――」
「パパ、ママ、ごめんなさい……ネーラは親不孝者です……もう二度と会えないことをお許しください……」
なんか勝手に悲劇のヒロインになっている女性……ネーラというらしい……が、涙ぐみながらぶつぶつと言う。人間と相いれない感じなのだろうか……?
「よくわからんが、人間が怖いのか? 俺は大丈夫だって」
「いやあああ!? 孕まされるぅぅぅ!」
「やまかしい!」
「へぶ!?」
俺が手を上げて害がないことを伝えるポーズをするも、頭をぶんぶん振りながら嫌なフレーズを叫びながら泣き叫ぶので、俺は頭をぺしっと叩いてやると変な声を上げてソファにあるクッションに顔が沈んだ。
「うう……し、知ってるわよ……甘言で誘い油断したところをパクッていくって……」
「それは油断している奴が悪い気がするし、別に種族がどうとかそういう話でもないだろうが。で、お前はエルフで合っているのか?」
俺がそういうと、きょとんとした顔でクッションを抱きしめながら口を開く。
「そ、そうよ! この長い耳、しなやかな髪に折れそうな細い腕、どこからどう見てもエルフよ!」
「折れそうな腕はマイナスポイントだと思うが……まあいい。俺は永村住考。お前はネーラでいいんだな?」
「な、なぜ私の名前を……!? いつの間にか魔法をかけられていた……? ひ、卑怯な!」
「自分で名乗ったんだよ! ったく、疲れるな。まあ、名前はいいか。さっきも言ったが、お前に危害を加えるつもりはない。もし帰るなら出て行ってもらっても構わないけど、もうウチの敷地に入らないと約束してほしい」
「……」
訝しげな眼を向けてくるネーラは無言を貫く。うーむ、さっさと追い出すべきかと頭を悩ませていたところに、救世主が現れた。
「みゅー♪」
「みゃー!」
「ああ、いいところに! ほら、子ネコ、撫でてみないか?」
俺がどちらかといえば人懐っこい三毛猫を差し出すと、ネーラは目を大きく見開いてからソファの上で正座をし叫んだ。
「お、お猫様!? ぜ、絶滅したのではなかったのですね!!」
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