その2 ペット、ゲット
「ほら、母猫の最後の姿だ。目に焼き付けておけ」
「みぃ……みぃ……」
「にゃー……みぃ……」
二匹の子ネコが俺の腕の中でか細く鳴き、母猫に最後のお別れをする。俺は土を被せていき墓石になりそうな平たい石を立てる。そこに買ってきた花とネコ缶、牛乳瓶に水を入れて供えてやる。
「ガリガリだったもんな。あの世で少しでも腹いっぱいになってくれ」
――結局、俺はこの親子を見捨てることが出来ず、あの日は夜でもやっている動物病院をスマホで探して三匹を連れて行った。
結果、予想通り母猫は栄養失調で死亡。子ネコもあと少し遅かったら母親と一緒に召されていたと獣医さんが寂し気な顔で語っていた。
二日ほど病院でお世話になったおかげで、子ネコは元気になり、引き取って家に帰ると目が開いたので居間に横たえていた母猫に会わせた後、庭に埋めた。
獣医さんが引き取って処分してくれると言ってくれたのだが、それは何となく可哀想な気がしたんだよな……
「みぃ、みぃ!」
「みゅー」
「はは、すっかり元気だなお前等。ほら、ボールだぞ」
母猫を認識していたか分からないが、とりあえず元気な子ネコ達に安堵し、頬が緩む。
しかし、どうしたものか……俺は今頃ペットショップで豆しばを買いに行っていたはずだったんだけどなあ。
何気に動物病院の金額も馬鹿にはならなかったし、このまま保健所というのも何だか寂しい気がするな。
「よし……! おいで!」
「みぃ♪」
「みゅー」
俺が手を叩いて呼ぶと、二匹は全力で俺に突っ込んでくる。その内一匹を抱っこし、性別を確認した。
「お前は女の子か」
「みゅー」
サバトラの毛並みをした子ネコはメスで、じたばたしながら俺にネコキックをしようと暴れるのでそっと降ろし、もう一匹を抱っこする。
すると――
「……お前、オスなのか」
「みぃー」
呑気に鳴く三毛猫はなんとオスだった。三毛猫のオスはほとんど存在せず、超がつくほどの希少な生き物である。もし売買したらそれなりに値がつくだろう。
「まあ、売らないけどな。ウチでゆっくり生活しような」
「みぃー♪」
ただ一点、気になるのは病気かな? 三毛猫のオスができる原因は染色体異常のせいだと聞いたことがある。根拠は記されていないが、早逝しやすかったりしないだろうかと少々不安になる。
「ま、先のことは分からないか! さて、腹が減ったな。ちょっと待ってろ」
俺は二匹にミルクを作りつつ、自分の昼食も仕上げていく。今は飼い方もネットで調べれば一発なので便利な世の中だ。
生まれたばかりで拾ったのが幸いしたのか病気は無く、ノミも獣医さんが洗ってくれたので室内に置いても問題ない。チャーハンを食べ終えた俺はスポイトで子ネコ達にミルクを飲ませながらひとり呟く。
「はあ……豆しばを飼いたかったなあ……」
でも、初めてペット飼うから複数飼いは無理だと判断し、俺はこの二匹を引き取った際に諦めていた。犬と猫の仲が悪いということはないので機会があれば、というところだな。
とりあえず今日のところは心を鬼にして、二匹のベッドやおもちゃを買いにだけ行こう……!
◆ ◇ ◆
「きゅんきゅん!」
「ああ、可愛いなあ……」
子ネコの道具だけ買いに来たものの、やはり店頭でころころと転がる豆しばは可愛かった。
「ふふ、以前からその子をずっと見てましたよね。とても人懐っこいですよ? どうですか」
「ああ、すみません……いえ、欲しかったんですけどね――」
と、いつも軒先で豆しばを見ていたことを知っている女性店員さんに声をかけられ、俺は事情を説明する。すると彼女は、
「そうなんですね……お母さんネコは残念でしたけど、お客さんが拾ったのも何かの縁かもしれませんし、いいと思います! それじゃネコちゃんのグッズをご案内しますね」
「あ、どうも」
ケージ、ベッド、トイレに砂。それに敷物や爪とぎ板といった必需品を案内してもらい、首輪も買った。トレイは庭でも、と思ったが、躾けのひとつとして教えないとダメだと言われたのでしっかり教えようと思う。
聞いたところによると目が開いて少ししたくらいで離乳食に変えてもいいらしいので、ネコ用離乳食も少し買っておく。
「ありがとうございました! 今度はネコちゃんを連れて来てくれると嬉しいでーす!」
「はは、もう少し大きくなったら是非」
そう言って店を後にし、大荷物になったなと苦笑しながら嘆息する。ペットは金がかかるものだと聞いていたのでこれくらいは問題ない。それに、何だかんだ言っても子ネコは可愛いしな。
「あ、庭にバリケードを作って遊ばせるのもいいかもな」
運動になるし。……むしろ犬の散歩をする、という目的が無くなったので俺も何とかせねば……そんなことを考えながら玄関を開け、リビングへ行くと――
「みぃ! みぃ!」
「みゅーん……」
「おお、どうした。寂しかったのか?」
二匹が早速俺に突撃してきた。姿が見えなくなって不安になったようで、ひっぺがそうとしても爪を立てて離れてくれない。
「ま、いいか」
そのまま抱きかかえてやると、ケージを組み立てベッドを置き、トイレに砂を入れたりして環境を整える。
「みぃ?」
「お前の寝床だ毛布もあるからゆっくり休めよ」
「みゅーん」
サバトラは臆することなくベッドにダイブし、感触を確かめ、三毛猫はその後を追い、同じケージでわちゃわちゃしだす。二つ買った意味が……しかし、仲良く暴れているのでこれはこれでいいかとしばらく眺めていた。
「ふあ……明日はアパートの見回りとあいさつ、それと帳簿を確認しないとな……会社に行かなくていいのは楽だけど……」
子ネコが寝入るのを見届けてから風呂に入り、仏壇に手を合わせてから自室のベッドに寝転がるとすぐにあくびが出る。子ネコに何かあってもいいようにドアを開けているので鳴き声があればすぐに行ける。
「あ、そうだ……名前、何にするかな……」
そう思った瞬間眠気が襲ってきて俺は目を瞑る――
――そして、どれくらい眠っていただろうか。完全に寝入っていた中、急に目が覚める出来事が起こった。
ゴオオン!
「うおおおおお!? なんだ!?」
そう、物凄い轟音と共に家が揺れたのだ。
俺は慌ててカーテンを開けて外を見るが、停電や緊急事態があったようには見えない。スマホにも地震速報は無く、俺は冷や汗を拭いながら息を吐く。
「びっ……くりしたああああああ……! あ、子ネコは!?」
時間はまだ夜中の二時半だったので、特に何もないことを確認し、俺はネコ達のところへ行く。二匹はさっきの地震に気づいていないのか、大人しく寝息を立てていた。動物は地震に敏感と聞くけど子ネコは例外、なのか……?
「ま、いいか……ふあ……寝よう……」
そのままもう一度寝入る俺。
――だが、思いもよらぬ事態が起きていたことに、この時の俺はまだ気づいていなかった……
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