女神の心鏡


 世界を作るということがどういうことなのか分からないけど俺達が住む地球の歴史のようにまさかプランクトンから進化させた訳ではないと思う。

 ともかくそれができるのは神か女神。この世界ならハーテュリアだ。

 実際、作ったことに対して疑問は無いし、そこを議論しても仕方がない。


 問題はこいつが魔族が嫌だという理由を突き付け、我儘で滅ぼそうとしているように語るが……どうも真の理由を隠している気がする。

 この世界だけで完結させるなら『扉』は必要ないはずだからだ。あれを作った理由が他に必ずあるはず。


 「どうなんだ、ハーテュリア」

 『ふ、ふふ……あはは! 凄い発想ね。ドラゴンはこういう世界なら必要でしょ? 『扉』は魔族と一緒のイレギュラー。できれば破壊しておきたいのよ? あ、ベイグライドクロニクルだっけ? ああいうゲームをやっているからそういうのが思いつくのね。帰ったら私にもやらせて――』


 ハーテュリアが笑ながら話題を露骨に逸らしたので、俺はぴしゃりと遮って続ける。


 「はぐらかすな。お前、なにを隠している? お前が世界を作ったなら『扉』もそうだろう。魔族達が別の進化をしたというなら分かる。だけど『扉』が勝手にできるとは考えにくい」

 「それにドラゴン達の説明ができないわ。スメラギに聞いてみたけど、ドラゴン達はあの7体しか居ないらしいわね? 明らかに理由があるでしょ」


 母ちゃんも元魔法使いらしく賢さを前面に押し出してくる。

 そう、人間達がドラゴンを倒せば『向こう側へ行ける』という話をどこから聞きつけたのかということと、『扉』ドラゴンが鍵になっているということは創造主たる女神が細工をしている以外に、ない。


 そのことを告げると――


 『……残念ね』

 「なにがだ?」

 『賢いということがよ。黙って私の言う通りにしていれば、後は向こうへ帰って終わり。そういう計画だったのに。そこに気づいたら……始末するしかないわね……』

 「……!? お前……!!」


 ニタリと笑い、見上げるようなまなざしを俺達に向けてくると同時に、俺の手から聖剣が消えた。

 

 「なんだと!?」

 『これは私の持ち物だから返してもらうわ。それと、気に入ってたんだけどね、あなたたちのこと……!!』

 「お前は……!」


 聖剣が俺の手から消え、ハーテュリアが目を見開き、口を半月状にして笑う。

 どうやら俺と母ちゃんの推測はビンゴ。


 「兄ちゃん! <禍つ水竜オミュニス>!」

 『成長は早いけど、妹ちゃんの実力じゃまだまだよ!』

 「そんな!?」


 聖剣を振るって結愛の魔法を打ち消して不敵に笑う。そんな女神に俺は尋ねてみる。


 「やっぱり『向こう側』へ行ける手段を創っていたということか。目的はなんだ? 魔王や魔族を根絶やしにするのと関係あるのか?」

 『……地球って星はとても恵まれているの。女神や神が世界を創る時はさらに上のトップクラスの神に選ばれてようやく手掛けることができるわ』


 曰く、だいたい剣と魔法の世界を創る者が多いらしい。

 理由は『魔法』の利便性が高いからで、人間が成長しやすいからとのこと。その反面、そればかりに頼りすぎてしまうことで途中から成長が止まってしまうのだとか。

 よくラノベで「異世界」の話を見かけるが、そのほとんどが中世みたいな世界感なのはそのせいと言う。

 

 だが、魔力というものは動物を魔物に変え、人間を魔族に、魔王へと変えてしまう。


 【我々はイレギュラーだと言うのか……!?】

 「いや、魔力っていうものを媒介してその内、なにかしらで生まれるならそれは偶然じゃなくて必然、ってことだと思うぞ。どちらかといえばそれを良しとしない女神の方がおかしいと思うのだが」


 親父が目を細めると、涼しい顔で首を振る。


 『それだと他の世界と似通ってしまうわ。だから人間が魔族を倒せるよう聖剣を創り、向こうの世界からなにかを得るため『扉』を繋げているってわけ。地球は魔法の代わりに科学を発展させてきた……こっそりそのヒントを手に入れるくらいはと思ったけど、あまり効率は良くないから『扉』を壊すつもり』

 「勝手なことを……」

 『言うわよ、私の世界だし? ……さ、魔王を倒すからそこをどいてくれる? ああ、抵抗するなら殺すわよ』

 「きゃ……!?」


 結愛の足元に斬撃を飛ばし床を深くえぐる。

 こいつが作った世界なら何をしても許される、という考えを持つのは有り得なくない。だが、それなら世界を作り直せばいいのではないだろうか?


 なんだ、この違和感は……? 色々と口にしているが『結果』に結びつく『正解』がなんなのか分からない。俺達を始末するつもりなら『扉』を知った時点で潰せばよかった……いや、こっちに来ないと手が出せなかった?


 『この世界のために……死んで……!!』

 「だ、め……怜、ちゃん。ありのままを……受け入れないと……」

 「真理愛、お前……!」

 「怜ちゃんは……女神さまは……」

 「そうか……そういうことだったのか!」

 「修、真理愛ちゃんを連れて――どこいくのー!?」


 母ちゃんの声が最後まで聞こえなかった。

 何故なら、俺と目覚めた真理愛はハーテュリアの意図に気づき、向かってくる彼女に対し、突き進んだからだ!!

 

 「ハーテュリア! お前の苦しみ、勇者としての俺が……救ってやる!!」

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