失敗作
『真理愛……! もう目が覚めたの!? 私の催眠がこうも簡単に――』
「修ちゃん、わたしが動きを止めるよ!」
「任せるぜ真理愛!」
左右に分かれた俺と真理愛、どちらを相手にするか迷ったハーテュリア。その一瞬は真理愛にとって十分な時間だった。
「<
『しまっ――』
「ハーテュリア!!」
白い羽のような魔力の枷がハーテュリアの聖剣を持った腕と片足に絡みつき、拘束される。
その隙に俺は目の前まで接近し、聖剣を持つ手を抑えてやった。
魔力は高いが身体能力は八塚のそれなので、直接戦闘は苦手と見たが正解だったようだ。
『くっ……離しなさい……! スケベ……』
「この期に及んでそんなこと言うか!? お前、魔族達を根絶やしにしないといけない理由が他にあるんじゃないか? 例えば、他の神となにかあるとか」
『……!』
「図星か?」
「もうやめよう怜ちゃん……わたし、見ちゃったから……」
『真理愛、あんたいつから……!?』
「お城を攻撃した時から、かな……聖女としての力が戻って、怜ちゃんの心に触れたの……あのね、みんな――」
『止めなさい真理愛!!』
「大人しくしろ!」
「兄ちゃんが変態みたいに見えるね……」
「言葉だけ聞くと女の敵よね」
「うるさいよ!?」
そんな女性陣の野次が飛ぶ中、真理愛が見たハーテュリアの真意はこうだ。
世界を構築すると最上神なる者が一定の期間立つと構築した世界を確認するらしい。そこで点数がつけられるのだが、あまりにも点が低いとその世界はお取り潰し……いわゆる消滅しなければならない。
特に最初のコンセプトを提出し、その通りに発展するかどうかが課題の焦点になるようだけど、その中に魔族や魔王といった者が産まれるような記載がなければ『失敗』の烙印を押されるわけ。
さっき『なんでか分からないけど魔王がいた』と言っていたのは本当らしい。
だから『扉』やドラゴン、向こうの世界へ行けるというのは最初にハーテュリアが設定していたから問題なく、地球へ行っても強制送還が可能なので発展の手助け程度ならOKを貰っているとのこと。
「……だけど、その異世界行きは女神の導きでドラゴン討伐ではなく、話し合いにより勇者や聖女のような人格者だけが行ける……はずだった」
『そうよ……私がちょっと寝ている間に魔王が産まれて魔族が氾濫して、勇者に倒してもらおうと聖剣を渡したら、人間が弱くて封印が精一杯。つい最近だとクソ国王に唆されてドラゴン退治。味方のドラゴンを全部倒すわ、最後相打ちになるわでもうめちゃくちゃ!』
泣きながらへたり込むハーテュリアに困るが、結局魔王と国王の侵攻を阻止するためには自分でやるしかないと判断し、歴代でも力があった方である俺と真理愛を転生させて、事件解決に勤しんだというわけらしい。
「はあ……事情を話してくれればやりようもあったろうに……」
『最後の手段だったし、現地人に話したら即滅亡だったから……』
【な、なら、我等の世界は……終わり、ということか……?】
「……そうなるわね」
「うーん、流石に理不尽だと思うけど……」
結愛が頬を掻きながら呟き、親父や俺達も頷いていた。
しかしハーテュリアは続ける。
『……向こうの世界の住人も何人か魔族やこっちの人間に殺されているし、もう取り返しがつかないのよ。せめて魔王とあの国王をこの手で始末して帳尻を合わせようと思ったの』
「怖いな……!? どっちにしても取り返しがつかないならこれ以上はどうしようもないだろ。この世界はどうなるんだ? その一番偉い神様が壊しに来るのか?」
<さっきから聞いていると不穏なことを……我等はどうなるのだ!?>
「あ、聞いてたのか」
ドラゴンに戻ったのであればこの世界の住人となってしまうので一緒に消えてしまう可能性は十分ある。
それを母さんが説明すると、スメラギ達がオロオロしだした。
<なんも悪くないのに消えるのは嫌だぞ!?>
<あたしも嫌よ、折角復活したのに! あ、そうだ! 猫に……猫になれば向こうへ……も、戻らない……>
「ドラゴンでも死ぬのは嫌か……どうにかならないものか」
俺がそう呟いたその時、魔王がハッと気づいて俺達に言う。
【おい勇者! 魔力結晶を使うぞ! ここに居る全員の魔力で時を戻せばなんとかならないか?】
『むう……今となってはそれしか……』
「大丈夫なのか?」
意外と切羽詰まっているのかハーテュリアが魔王に同意し始めたころ、どこからか声が聞こえてきた。
『ふむ、どうやらハーテュリアの構築した世界は……失敗したようじゃな』
『さ、最上神様……!? も、もうここへ……』
『うむ。地球にも迷惑をかけたみたいだから、急ぎ降りて来たわい』
「むう、直接脳内に……!」
姿はなく、親父の言う通り声だけが頭に響いてくる。
最上神とやらはため息交じりに言葉を続けた。
『とりあえず、その体は地球の親子に返さねばなるまい。沙汰は追って通達する。勇者たちよ、ご苦労であったな。後はこちらでなんとかするので、君達は向こうの世界へ還りなさい』
「それは助かるけど……魔王やスメラギ……ドラゴン達はどうなるんだ?」
『……』
俺の質問にはだんまりか。
魔王とかはどうでもいいが、スメラギ達が消えるのは嫌だ。そう思っていると真理愛が口を開いた。
「神様、怜ちゃんがこの世界を作って手を尽くしたことは事実です。世界が意図通りにならなかったとしてもわたし達は生きています。それを一方的に壊すのが神様のやることでしょうか?
確かに怜ちゃんにはなにかしら罰はあるかもしれません……だけど、何も知らない人達がいきなり消される……命を弄ぶのはどうかと思います」
「真理愛……。だな、なんとかならないのか最上神様。魔王が時を戻せるくらいだ、あの親子たちも含めて方法はないか? 俺ができることがあるならなんでもやるぞ」
「修ちゃん……うん!」
『むう……』
難しい問題ではある。
他にこういった温情をかけたことがあるなら可能性はあるけど、ハーテュリアの焦りようからするとその例はあまりなさそうだ。
【ぬう……魔王である私がこんなことを言うのもなんだが、もし存命させてくれるなら人間達と同じような国を作り、協力するつもりはある。ここで生きている者として、命は惜しいし世界が消えるのは忍びないものだ】
魔王もちょっと必死だな。まあ、いきなり決着とかそういうの以前に力による圧力で消されるわけだし、願うくらいしか方法がないもんな。
『ふむ、面白い者達だ。ならば――』
「ならば……?」
最上神はしばらく黙っていたが、俺達へ話しかけてくる。
その内容とは――
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