後の祭りか、祭りの後か
「10年くらいなもんだけど、覚えてないもんだな……!」
<仕方がない空からの旅というのはこの世界で出来ないものだからな>
スメラギの背に乗って眼下をみながら顔を顰める俺の横で、結愛が感嘆の声を上げる。
「ひゃー、鱗が陽の光に当たってキレイね!」
<ありがと♪ ……それにしてもまさか辺境の辺境から出るとは思わなかったわね>
<そうだな。先に入った女神が怪しいが……捕まえねばそれはわからんな>
「まずはウルグファインへ行って陛下に会うぞ」
そういう親父はウルフの背に。
そう、あのスメラギを含む猫軍団は見事ドラゴンの姿を取り戻していた。
一人一頭。
はかったわけではないが丁度乗れていたりする。
スメラギ、俺
フレーメンは結愛
スリートには母ちゃん
ウルフに親父
ヴァルカンにフィオ
ソルにブランダ
<うう……あんなに居てどうして男なんだ……>
「つべこべ言うなって、ミモリさんを怒らせると怖いんだぞ?」
<それは知っているよ……>
ブリーズにエリクという布陣で空を駆けている。
実は降りた瞬間、スメラギと戦った雪山の上空に放り出された。
俺達はスメラギに乗っていたが、連れていた猫達がそれぞれ巨大化していったのである。
着陸してから再度飛び立って今、というわけだ。
アクアドラゴンのフレーメンも言っていたが、スメラギが居たこの雪山は辺境も辺境で、帰らずの山と言われている場所なのだ。
実際、ここに来るまであちこちのドラゴンを倒しながら三年はかかったのだから。
<おい、ソル無理すんなよ。お前は飛ぶの苦手だろ>
<そうも言っていられない。あの女は危険だ、魔族も復活しているなら女神が戻ってきたことくらい感知しているだろう>
「……とか言うから出て来たじゃない」
母ちゃんが不敵に笑いながら前方を見ると、魔族と思わしき羽の生えた奴らが近づいてくるのが見えた。
<蹴散らしますかい?>
「時間が惜しいわ、ここは迎撃組と城へ向かう組で別れましょう」
「なら俺が――」
「修は城へ行け、結愛も。ここは俺が引き受ける」
「親父……」
「シュウ兄ちゃん、俺も残るぜ。フィオ、ブランダさん、兄ちゃんを頼むぜ。いいなヴァルカン」
<ふん、物好きだな。だが、気に入った。任せろ>
並んで飛んでいた親父とエリクが前進し、残った俺達はさらに上空へと昇っていく。
「死ぬなよ親父、エリク!」
「当たり前だ。久しぶりに暴れさせてもらうぜぇ!!」
「へへ……伝説の魔族か……今の俺じゃ無理だろうが足止め位は……」
親父が仁さんから借りた大剣を肩に担ぎ。咆哮を上げた。エリクは冷や汗をかきながら杖を向ける。
くそ……こんなことをしている場合じゃないのに……
「兄ちゃん、急ごう!」
「さっさと行って帰って来るぞ! 飛ばしてくれスメラギ!」
<承知! 掴まれソル>
やはり飛ぶことが苦手なソルをスメラギが掴み援助する。
戦いも地上戦向きらしいので、あの場に残らなかったようだ。
「エリク……」
「大丈夫よフィオ、ウチのパパは強いんだから」
<我々で蹴散らしても良かったのでは?>
<ヴァルカンが居るから範囲攻撃は大丈夫だけどにゃ>
「史樹さん……守ってください……」
そのまま俺達はさらに速度を上げて一気に進む。
そして本来なら直線距離で一年はかかる道のりを数時間に短縮してウルグファインに到着。
しかしそこは――
「城が……燃えている……」
「見て兄ちゃん、町もかなり壊されているよ」
「と、とりあえず逃げ惑っている人を助けないと!」
<結愛、私達はそらで消化活動に入るわよ!>
「うん……!」
――阿鼻叫喚というに相応しい場所に変わり果てていた。
俺が小さいころ、フィオやエリクと遊んだ広場も、家出して夜通し過ごした教会も、時計塔も……思い出とも言える場所が破壊しつくされていた。
「こっちは私が。修はブランダと国王のところへ!」
「あ、ああ……」
「行きましょうシュウ様!」
<酷い有様だな……一体何者が……>
スメラギも眼下の状況に言葉が出ないようだ。
瓦礫に押しつぶされた人なども居て確実に亡くなっている人が見受けられる……
先ほどの魔族を思い出して攻めてきたのかと考えるが、事態は予想を遥か上を行っていた。
「うわああ、ド、ドラゴン!?」
「大丈夫、彼らは味方です!」
「ブ、ブランダ!? も、戻って来れたのか……フィオもいる……?」
「それは後で! これは一体なにがあったのです?」
俺達は城のテラスに着陸すると、姿を見かけたのか兵士達がバラバラと囲んできた。だが、フィオとブランダの姿を見つけて武器を下げて口を開く。
「し、しかし、ドラゴンとは……もう少し早ければ、良かったのだが……」
「なにがあったんだ? 町も城も壊れているのに加害者が居ないようだけど」
「君は……? もはや今更だが、こちらへ来てくれ。ブランダは特に」
「?」
俺達はスメラギ達に待つよう声をかけてから兵士の後をついていく。
そして玉座のある謁見の間へ。
重い扉が開かれた先の光景に、俺は、俺達は息を飲む。
「へ、陛下が……」
「し、死んでいるの……?」
「……」
虚ろな目で頭を垂れているのは俺が知る国王より老けていたが、間違いなく国王ゴーデン。
その胸は貫かれ、玉座の背を血に染めていた――
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