神緒家の騒動
<どうしたんです奥さん?>
「シッ、人の気配がするわ。結愛が帰って来た……ってことは無さそうだけど」
<俺っちが偵察してきましょうか? もしくはできれば首根っこを掴むのではなく抱っこしていただけると……>
「いえ、大丈夫よ。<
<とほー>
首を摘まんでぶら下げているスケベ猫をともかく、山本さんと話していた空き巣がウチに来たか。
まさか休日の白昼でことを起こすヤツが居るなんて世も末だと思いつつ、セ〇ムとかアル〇ックには入った方がいいのか真剣に考える。
「ふぎゃぁぁぁぁ!」
「んやぁぁぁぁご!!」
「猫が舐めてんじゃねぇぞ!」
「庭……!!」
置いてきた猫達のシャー声が聞こえて来たので、私は急ぎ庭へと回る。すると目出し帽をかぶった『いかにもな』人間がごろごろと転がっていた。
「ふしゃ! ふしゃぁぁぁぁ!」
「このクソ猫が!」
「ふぎゃ!?」
ウルフたちが弾き飛ばされ、空き巣が慌てて立ち上がると私に気が付きナイフを構えて立ち止まる。
「そこまでよ、大人しくしなさい」
「この家の人間か……? へへ、死にたくなけりゃ有り金全部よこしな」
「お断りよ、犯罪者にくれてやるモノはないわ。あ、いや一つだけあったか」
「……?」
「前科一犯って肩書よ」
私が不敵に笑って言うと、理解した空き巣が駆け出してきたので買い物袋とスケベ猫を放り投げて相手に掌を向ける。
「ふざけやがって……! 犯してから金を奪ってやる!」
「出来るかしらね? <
「なんだ、手品か!? 熱っ!?」
放たれた魔法は手加減したけど、剣の軌跡を描くようにナイフを弾き飛ばし、驚愕した目を向けながら右手を抑える空き巣。
「あら、ごめんなさいね。ちゃんと冷やしてあげるわ<
「ごべぁ!?」
頭上から落ちて来た大量の水に飲み込まれて空き巣は潰れた。
<おお、母上か!>
<侵入者だったんだが、家の中までは入らせてねえぜ!>
「よくやってくれたわ……ってスマホは?」
<あの板はうんともすんとも言わなくなったので俺達にはどうしようも無かった>
そういって器用に前足に挟んで二足歩行でもってくるウルフからスマホを受け取ると、認証画面で止まっていた。そういえば時間が経てば自動的にロックがかかるし、肉球じゃ指紋解除もできない。
「あー、ごめん。これは私のミスだわ。とりあえず警察に電話を――」
電話をかけるためスマホに目を向けた次の瞬間、私は地面に転がっていた。
「いったぁ……」
「なんだかわからねえが、痛かったぞ……! こうして上に乗っちまえば抵抗できねえだろ」
「くっ……!?」
手加減しすぎたらしく、空き巣は気絶したふりをして隙を伺っていたらしい。殴りかかろうと腕を伸ばしたら、両手を押さえつけられてしまう。
<奥さん!?>
「へっへ……近くで見ると美人だな、人妻にしておくのはもったいねえぜ」
「離しなさい……! ウルフ達!」
「ふぎゃぁぁぁ……!!」
「にゃぁぁぁぁぁ!!」
「おっと、動くなよクソ猫ども。随分しつけされているみてえだが、ご主人様の腹を抉られたくなかったら邪魔するんじゃあない」
直後、お腹にナイフが向けられてウルフ達は急停止してうなりを上げていた。なまじ知恵があるから襲ってこれないようだ。
「さて、それじゃ時間も惜しいからさっさと楽しませてもらうか」
「ちょ!? お気に入りの服なのに!」
「うるせえ! ……いいね、でけえ胸だ」
ナイフで私の服を切り裂いて胸元を露わにすると、そのまま乱暴に揉みしだいてきた。こういう状況は向こうの世界では何度かあったのは恥ずかしいというようなことはない。それよりも怒りが膨らみ、今、頂点に達した。
「な、なんだ……!?」
私は押さえつけられた腕を力任せに動かし、上半身を起こし、不意に力が抜けたところで振り払い鋭い右フックを繰り出す。
「私の胸に触っていいのは旦那だけよ! 気安く触るなぁぁぁぁ!」
「な……!? ごふ!?」
たまらず後ろに転がりナイフを取り落とす空き巣。私は完全に起き上がるとナイフを遠くへ投げ捨ててから一旦距離を取り助走をつける。
「死ね……!!」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁ!?」
起き上がろうとしたところに助走をつけたミサイルキックが炸裂し、三回……四、五回転したのち、縁側に頭をぶつけてがくんと項垂れた。今度は即座に洗濯紐で縛り上げてから口を開く。
「ふう……ここが向こう側でなくて良かったわね、死なずにすんで。って、もう聞こえてないか」
<あ、ああああ……>
<流石だな。む、見ればお前は俺達と同じか? なにをそんなに怯えている?>
<お、俺はさっき奥さんの胸を楽しんだんだ……こ、殺される……>
「ああ、猫だからノーカンにしておくわ。ただし次は……」
<わ、分かってます! すみませんでしたぁぁぁぁぁ>
ウイングドラ猫がウルフの後ろで泣きながら頭をガクガクさせるのを見て苦笑し、警察を呼んだ。
場が一時騒然とし、程なくして鋼刃さん達が帰ってくると、増えた猫と私の格好を見て酷く驚いていたのがちょっとおかしかったわね。
「また、新しい服買いに行こうな」
旦那にそう言われ、次の休みはデートかしらなんて思っていたんだけど、まさか結愛にあんなことがおきるなんて――
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