百何匹かの猫大行進?
「にゃー」
「みゃーん♪」
「にー!」
「うおお……ね、猫が押し寄せてくるっ!?」
「おいでおいで!」
数百匹の猫がシュネや俺達の周りを取り囲み、真理愛の手招きで寄ってくる猫たちを愛でてやると、あっという間に足下にびっしりと集まりよじ登ってくる。
「こりゃ大変だ、スリートどうだ?」
<ちょっと待ってくださいな、と……残念、この中には居ないみてえです>
「そっか、これだけ居たら一匹位紛れていても――」
と、俺がスリートを持ち上げたところでスリートの髭がとんでもない勢いで震え出し、どこかを指し示すようにへにゃりと曲がった。
<うわあ!?>
「髭が面白いみゃ!」
「無様な髭にゃ」
「こいつはまさか……こっちか! 住孝さん、いいですか!」
「ああ、一緒に行こう。ネーラもついてきてくれ」
「オッケー!」
「あ、待って修ちゃん!? ごめんね、後から遊んであげるから!」
全身猫だらけになった真理愛が慌てて追いかけてきて横に並ぶ。猫女神みたいになった真理愛にぎょっとなるが、髭も激しさを増しどこを見ていいのか分からない状況に困惑しつつ、なんとか目的地に着く。
そこには――
「ひゃあ!? ……あれ、どちらさま? スミタカさんとネーラもどうしたんですか?」
「あれ、修君に住孝さん?」
小柄で赤ちゃんを抱いたエルフの女の子と真弓さんが居た。周りは畑で、見事なトマトがぶら下がっているのが見える。
「真弓にフローレか、いや、修君が連れている猫の髭が凄いことになっててな」
「ここら辺みたいだけど……」
「あ、マユミから聞きましたけど猫ですか? でしたら一匹ここに居ますよ」
「本当だ、赤ちゃんの枕もと!」
真理愛が指差した先には座布団の上で丸くなっているブチ猫があくびをしていた。
<……>
「あ、今こっち見た。スリートが反応しているのはこいつか……?」
そっとスリートを近づけると髭がさらに激しく震え、さらには座布団猫にも波及し、共鳴を始めた。しばらく眺めていると、ブチ猫がスリートを前足ではたきながら激昂する。
<うおおおお! 鬱陶しいわ!?>
<へぶ!?>
「あ、喋った! ドラ猫ちゃんだ!!」
<し、しまった……! にゃ、にゃあん♪>
「よし、捕獲」
<ああああああああ!?>
「そいつが目当ての猫かい? 最初に連れてきた中の一匹だけど、意外と居るもんだな……」
住孝さんが顎に手を当てて感心するように頷くのを横目に、俺はブチ猫に話しかけることにした。
「俺は修。お前は元ドラゴンの猫で合っているか? 属性は?」
<……ああ、そうだ勇者。俺はアースドラゴンだった者だ。安住の地を見つけたと思ったらまさか同胞に会うとは>
「お前以外にもカイザードラゴンやそこにいるアイスドラゴン、サンダードラゴンなんかも家にいるぞ」
<マジかー。俺を探していた、ということはなにか『向こう側』関連か?>
ブチ猫は座布団の上で丸まったまま、近づく真理愛を尻尾を振って追い払おうとしながら聡明な質問を投げかけてくる。
「ああ、どうも魔族と俺達をお前達ドラゴンに嗾けた国王がこっちの世界を狙っているようなんだ」
<ふむ、それで元ドラゴンの俺達にできることがある、と>
「だな。簡単に言えば魔力を使って向こう側へ乗り込んで、止めさせるつもりだ。もしかしたらお前達も元に戻れるかもしれない」
<なるほど。承知した、が、俺はドラゴンの姿に未練も無い。協力はするが、最後はこの世界でのんびり暮らさせてくれ>
「おお、珍しく達観したドラゴンが現れたな。スメラギなんてドラゴンの姿に固執しているのに」
<スメラギ?>
<カイザードラゴンでさあ。一人だけドラゴンの姿に戻れるんですよ>
するとブチ猫は『あいつはプライドが高いからな』と鼻で笑いながら立ち上がると背伸びをして俺に言う。
<仕方ない、お前の家に厄介になればいいのか? ……おっと>
「だぁー」
「ああ、ごめんね。ウチの子が! それより喋れたんですね」
<黙っていてすまなかった。平穏に暮らしたかったんだ>
真弓さんの子が揺れる尻尾を掴んできゃっきゃと笑い、ブチ猫は頬をすり寄せてやると大喜びだった。
「気に入っているんだなあ」
<なんでかは分からんがな。それじゃ行こうか>
「あ、折角だからお昼ご飯食べて行かない? 歓迎も兼ねて! 私達の子はそのお猫様を気に入っているからまた来てほしいしね。いいでしょスミタカ?」
「もちろんだ。それじゃ、お姫様からもらった肉でも出そうか――」
という訳で、異世界に居たアースドラゴン猫を見つけることができた。
これ、運が良かったけど下手すると見つからないままだった可能性が高いことを思い、俺は背筋が寒くなった。
ともあれ、これで残り二匹。ウインドドラゴンとアクアドラゴンもこの調子ならすぐ見つかるような気がするけど――
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