謎の夫婦
「すみません! あの、ちょっといいですか!」
「ん? どうしたのかな?」
俺は猫と犬が積まれた軽トラに乗り込もうとしている夫婦に声をかけ、男性が気づいてくれ振り返り首を傾げていた。
「あの、こいつらはどこへ……?」
「もちろんウチにだけど?」
「ふわあ、いっぱい連れて帰るんですねえ」
「そうですよ! ボク達のお家にはいっぱい居ても困らないんです」
小柄な女性、奥さんであろう人が真理愛の言葉に胸を張ってそう答えるが、ざっと見繕っても100匹は居る。これを飼うのは餌代も馬鹿にならないし大変だと思うんだけどな……。まあ、他人の家庭を気にしてもしょうがないので、俺は事情を説明することにした。
「すみません、この中に俺達が求める猫……いや、犬かもしれないけど、動物が居るかもしれないんです。少し確認させてもらってもいいですか?」
「ふうん? 殺処分にならなければ俺は構わないけど、それがわかるのかい?」
「恐らく……。スリート、どうだ?」
「にゃー」
「あ、大人しい猫ちゃんですね」
俺が真理愛からスリートを抱っこして軽トラの荷台に近づけて見る。金網の荷台には所せましと犬猫がいるので少し威圧感がある。
「……どうだ、声をかけてみてくれ」
<俺っちは元アイスドラゴンだけど、この中にウォータドラゴンやウインドドラゴンが前世だった奴はいないですかい>
スリートは小声で問いかけるがどれも反応は無く、あくびをしたり、怯えて隅で震えている個体ばかりだった。
<こりゃこの中には居ませんねえ>
「そうか……」
「残念だね……」
俺達が肩を落としていると、親父が近づいてきて俺達の頭に手を置いて笑いかけてくれる。
「ま、仕方がない。覚醒していれば反応はあるだろう」
「あの、猫を探しているんですか?」
「そうなんです! 喋る猫ちゃんって知りませんか?」
「おい真理愛、そんなの知っている訳が――」
「ああ、ウチの猫のことですか?」
「居るの!?」
奥さんがさも当然のように家猫が喋ると言い放ち、俺は真理愛の肩を掴んだまま大声で叫び、旦那さんが不思議そうな顔で口を開いた。
「どこかで見られていたのかな? コテツ達は結構はしゃぐからなあ」
「まあ困ることも無いですしね。会いに来ますか?」
「いいんですか?」
「ちょっと驚くかもしれないけど、構わないよ」
「親父!」
「ああ。それでは是非お願いしたい。あ、俺は神緒刃鋼という者で、この町の消防士。この子は息子の修で――」
「修ちゃんの幼馴染の真理愛です!」
「元気な子ですね! ボクは永村真弓で、こっちが旦那様の住考さんです」
「よろしく。それじゃ、早速行こうか。この子達も早く運んでやらないといけないしな」
住孝さんがそう言って軽トラに目を向け、俺達は後からついていくという話をして来るまで移動。きちんと檻を隠してゆっくり進む軽トラの後を追いながら親父が言う。
「しかし、あの数を飼うのは凄いな……口ぶりだと他にもいっぱいいるみたいだが、金持ちって感じか?」
「普通のサラリーマンっぽいけど……」
「ふんふーん♪ スリート、猫がいっぱいいるといいねー」
<いや、ドラゴン猫が居ればいいんですけど……真理愛さん、前足をぶんぶんするの止めてっ!?>
スリートにはとりあえずご機嫌の真理愛の生贄として働いてもらい、気づけば隣町の住宅街へと入っていき、やがて大きな家の前で軽トラが止まった。
「すみません神緒さん、角に来客用の駐車場があるのでそっちに止めてもらえますか? 俺は車庫で動物達を降ろしていますので」
「分かりました」
そして――
「いらっしゃいませー♪ さあさ、どうぞ上がってくださいな」
「「おじゃましまーす!」」
「にゃー」
真弓さんに案内されてリビングへ到着すると、キジトラと三毛の猫が二匹トテトテと歩いてきて、
「あ、お客さんかみゃ?」
「見たことがない顔にゃ」
「わああああ、ドラゴンじゃない猫なのに喋ってる!!」
「わあ!? なんだみゃ!?」
真理愛が飛び掛かり、驚きの声を上げる三毛猫。
「それにしても本当に喋るんだな……」
<ええ、俺っちもびっくりですけど、残念ながらこの二匹は転生体じゃありませんね>
「わ!? 喋った!? なんだい、君達の猫も喋るのか?」
住孝さんが驚いてスリートを見ると、真弓さんがスリートを抱き上げて話し出す。
「うーん、コテツやキサラギとはちょっと違う感じですね」
「だな。……ふむ、なにか事情がありそうだけど、良かったら話してもらえないか? もしかしたら協力できるかもしれない」
「え?」
「見ての通り、さっき保健所から連れて帰った猫達はどこにも居ない。この家にはちょっとした秘密があってね。しゃべる猫を連れている君達なら案内してもいいかもしれない」
そういえばあれだけの動物は一体どこにいったんだ?
この人たち、一体……? 案内とはどういうことだろう――
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