保健所へ行こう!
「それじゃあ行ってきまーす! 最近出かけていなかったからお小遣い貯まっているのよね♪」
「気を付けてね。一応解決したとはいえ、模倣犯とか変態とか変質者とか変態が居るからね」
「変態が多いよ!? 夕方には帰るから! それじゃ行ってくるわねスリート、ウルフ」
午前九時。
結愛は友達との約束とやらのため出かけていく。出がけに二匹の猫にしか声をかけていないのはファイヤードラ猫は俺の部屋に隠しているからだ。
まあ、別に見せてもいいんだけどビジュアル的にキツイものがあるので一旦隠そうということになった。
「ふあ……元気だな」
<昨日はブラッシングをしてくれていた、良い娘だ>
<俺は風呂でしたぜ>
「お前ら結愛と真理愛に可愛がられまくってんな。おい、ファイヤードラ猫、出てきていいぞ」
廊下に声をかけると、尻尾以外の毛がすっかり刈り取られた猫が入って来て餌と水を口にする。
<なんで俺は後からなんだ……>
「お前のビジュアルは女子中学生には刺激が強すぎるんだよ。親父、とりあえず保健所にはスリートを連れて行くけどいいか?」
「おお、そうだな。猫を飼っているアピールをすれば引き取りやすくなるはずだ」
<出かけるのか? 俺もそろそろリハビリをしたいところだが……>
まだ片足を引きずっているウルフが伸びをすると、母ちゃんが抱き上げてしかりつける。
「あんまり無理しちゃダメよ。あの親子もあんたを大事にしていたんでしょ?」
<まあな……>
「ま、時間が出来たら散歩くらいには行こうぜ。俺達もそろそろ出るかい?」
「そうだな、十時になったら出よう」
<俺もこの姿じゃびびられるか>
「虐待を疑われたら嫌だし頼む」
というわけで、今日は母ちゃんとウルフが留守番となり俺と父ちゃん、それとスリートで保健所へと向かう。ダメ元だけど、母ちゃんの言う通り、野良猫なら居てもおかしくはない。
車に乗り込んだところで、ちょうど真理愛が家を訪ねてきた。
「あれ? 修ちゃん今日はどこか行くの?」
「おはよう、真理愛。ちょっとドラ猫を探しに行くんだ、スリートは連れて行くけど、ウルフとファイヤードラ猫は家に居るから母ちゃんと遊んでていいぞ」
「えー、それならわたしも一緒に行っていい?」
「そりゃいいけど、あんまり面白くないかもしれないぞ」
特にこいつは猫が好きだから全部引き取るとか言いそうだし。
「だいじょうぶ! おじさん、いいよね?」
「もちろんだ。昼は好きなもの食べようか」
「やったー!」
「真理愛には甘いなあ、親父も母ちゃんも……」
ま、危険はないし問題ないかと俺は後部座席に座る真理愛をバックミラーで見ながら肩を竦める。
「お前、友達と遊んだりしないのか?」
「え? 今日はみんな忙しいって言ってたかなー。怜ちゃんも家族でお出かけだって」
「ああ……昨日言ってたなあ」
真理愛は俺達にべったりだからたまに心配になるんだよな、高校卒業したらどうするんだろう。……いや、それは俺もか。
ま、とりあえず『向こう側』のケリをつけた後のことなのでまだいいかと俺はスリートとはしゃぐ真理愛を見ながら考える。
やがて来るまで30分ほどの場所に位置する保健所に到着すると俺達は早速中へ入り、受付で親父が声をかける。
「すみません、猫の引き取りを相談しに来たんですけど」
「あ、はーい。……その猫ちゃんを手放すんですか?」
女性職員さんだったが、真理愛連れているスリートを見て不機嫌な顔になり、俺達が捨てに来たのだと思っているのだろう。
段々預ける人間が増えていると聞いたことがあるし、その気持ちはわかる。しかし、そこで真理愛が口を開いた。
「違います! 猫さんを探しに来たんです! この子と同じ猫が居るかもと思って」
「え? あら、そうなの? 野良猫だったのかしら?」
「はい。兄弟猫が居たと思うんですが、もしかしたらと思って。まあ、分からないんですけど……」
「そういうことなら大歓迎よ! ……と言いたいところだけど、ちょうど今、犬猫を引き取りたい人が居てトラックに乗せたところなのよ。ウチにはもう殺処分待ちの動物は居ないから、ごめんなさいね」
「マジでか!?」
え? 結構な数が収容されているはずだけど……? それを全部? 身元がはっきりしていないとそういうのって難しくないか……?
「あ、引き取ってくれたご夫婦があちらよ」
そういって職員さんが目を向けた先には、若い夫婦が笑顔で歩いていた。
「いやあ、隣町まで来たかいがありましたね住考さん!」
「だな、これでまた賑やかになるぞ」
「コテツ達が先輩風を吹かすのが楽しみですよ」
夫婦、なのか……? 女性は真理愛より小さいんだけど……あ、いやそれどころじゃない!
「すみません、ちょっといいですか!?」
俺は慌てて夫婦に駆け寄った――
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