繋がる線
「ええ、こっちは大丈夫です。は? 生徒じゃない子だったのが幸い? そう言う問題じゃない!」
「どうしたんだ、珍しく怒っているじゃないか」
「上がくだらないことを言ったからだ。それより、エリク君達は?」
「フィオとエリクは立てるくらいには回復したけど、幽霊はダメだ、意識を失っている状態らしい」
「修ちゃん、あの人ブランダさんだって」
「知っている」
なんとなくそっちの方が伝わる気がしたからだ。
さて、若杉さんのおかげでフィオ、エリク、ブランダという女性の異世界組は病院に運ばれ、魔力をごっそり持っていかれたものの『繋がり』が薄くなっていたのか、フィオとエリクはまだ眩暈がするくらいで耐えていた。
しかしブランダは倒れたまま目を覚まさず、集中治療室へと運ばれた。
「異世界の人間、三人目か。報告書が面倒ですね警部」
「いいさ、向こうから来るというのが把握できたなら、警戒をするべき事案が起こるということ。この仕事も馬鹿にならないさ」
宇田川さんが肩を竦めて言ったことに対し、若杉さんは起こったことをそのまま報告するんだ、簡単だろ? みたいなことを言いながら、なにかを確認しにこの場を離れていく。
残された俺達がフィオ達が戻ってくるのを待っていると、八塚が誰にともなく話をしだす。
「なにが来ると思う?」
「王国サイドか魔族かってことか?」
「うん。扉を開けられるのは国だけみたいだけど魔族も変装して来ていたのよね? 魔族が潜り込んでくるとなると修君の聖剣セイクリッドくらいしか対抗策が無いから、ハッキリさせておきたいのよ」
「……お前も狙われるしな」
「あ、聖女ってやつ?」
目をぱちくりした八塚が『ああ』という感じで手を打つと、真理愛が八塚に背中から抱き着きながら言う。
「うんうん。また誘拐されないか心配だよー。明日から暗くなる前に帰らないとね。車でなら大丈夫かな?」
「村田が失態を犯しているからあまり信用できないけど、それ以外に方法が無いしな……送ってもいいけど」
「それもいいんじゃね? 車で八塚んちに一緒に行って、また送ってもらうとか?」
霧夜が頭の後ろで手を組んで軽く言うけど、車を出してもらうのは流石に申し訳ないと思う。しかし、八塚は顎に手を当てた後、ゆっくり頷いて俺達に告げる。
「それもいいけど、調査もしたいし固まって動くべきかも。いつでも村田は呼べるから、商店街方面の聞き込みの後に帰る、って感じにしましょうか」
「ま、まあ、奴らの動きがあってからな?」
「ええ!」
やる気があるのはいいけど、八塚は真面目に狙われるからあまり首を突っ込ませすぎるのは怖いんだよな。カレンもこういう強気なところあったから俺についてきたんだよな……
「あ、フィオちゃんとエリク君が戻ってきたよ」
「お、大丈夫かエリク、フィオちゃん」
「ありがとう霧夜さん。俺達はもう大丈夫、家に帰っていいって。……まあ魔力を抜かれたなんて分からないから貧血だってことになってるけど」
「ええ、多分こっちに数人来ていると思うわ。まさか私達の魔力を通り道に使うとは思わなかったけど……」
これも不可解ではあるんだよな、どうしてフィオ達とチャンネルが繋がっているのか?
「なんか仕掛けがあるのか……? なにか渡されたり、飲まされたりしなかったか?」
「うーん、ちょっと覚えはねえかな」
「うん。持ち物は自分のものだけだし」
考えても分からないか、とりあえず警戒を十分にしながら、向こうの世界の住人の情報を集めようと、その日は解散となった。
ブランダは若杉さん達の管轄になるそうなので、護衛をつけてくれるそうなので安心できる。
◆ ◇ ◆
「はあ……はあ……ひ、ひひひ……」
――深夜に近い時間、陰気な顔をしたサラリーマンが路地裏を走りながら気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
「やった、またやってやった……馬鹿なキャバ嬢が、金に釣られてついてくるから殺すのなんて簡単だぜ……馬鹿にしやがって馬鹿にしやがって馬鹿にしやがって……死ねみんな死ね……」
男は狂っているようにぶつぶつと呟きながら、返り血のついたシャツを一斗缶の中に放り込み、オイルを流して火をつけた。
「こ、殺せるだけ殺してやる……死刑でもなんでも構わない……」
爪を噛みながら炎をじっと見つめていると段々心が鎮まっていくサラリーマンに、背中から声がかかる。
<貴様の望み、叶えてやろうか?>
「だ、誰だ!? 見られた……! 死ね!」
<おっと、ためらわずナイフを突き出してくるか、なかなか悪い魂を持っているな>
「うるさい! 死ね! 死んでしまえ……!!」
ローブを目深に被り、声色から男だと思われる人影にナイフを取り出し襲い掛かるサラリーマンだが、あっさり回避された上に――
「うぐ……!?」
<活動するにはちょうどいいな『借りるぞ』>
「あ、が……!?」
首を掴まれたサラリーマンは暴れるが、ローブの男の目が光った次の瞬間、だらりと腕が下がりナイフを取り落とす。
そして、サラリーマンと抜けがらになったローブだけがその場に残されるのだった――
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