修とスリート、疑問に気づかされる
幽霊騒動はあっという間に終わり、後味の悪い結末を迎えたものの、ブランダはまだ死んでいないのが幸いだ。
真理愛や八塚に遺体を見せる羽目にならなくて本当に良かったと、風呂上りにスリートの毛づくろいをしながらそう思う。
<おおう……勇者の兄さんはブラッシングが上手いですねえ>
「まあな。子供の頃に爺ちゃんちで犬を飼っていたことがあるから、こういうのは得意なんだ。結愛は小さかったから可愛がるだけだったけどなんとなく覚えているんだろうな」
<その犬はどうなったんですかい?>
「ん? ……まあ、もう死んじまったな。それより、向こうからの使者のことだ、なにか感じたこととかはないか?」
俺はブラッシングをしている手を止めてスリートに尋ねると、髭をぴくぴくと動かしてから俺のベッドに飛び乗ってから言う。
<今のところはなにもないですぜ。昨日の夜、髭が震えたと思ったんですがすぐに止みましたよ。スメラギさんならもっと感知できるかもしれないけど>
「そっか、まあこの町にってわけじゃないだろうし、腰を据えてかかるか」
<……いや、そうでもありませんぜ>
「どういうことだ?」
俺の言葉にスリートが胡坐をかき、前足を組んで目を細めた。器用だな……そう言いかけたのを飲み込み尋ねてみると――
<この町に聖女であるレンさんがここに居るのはバレテーラです。それに勇者のシュウさんもここに居るのが分かっているので、この町を狙ってくるのは間違いないでしょう。あいつらの目的はこの世界と向こうを繋げることですから、レンさんを狙ってピンポイントで来ていると思います>
「確かに……」
そこで俺は疑問を抱えることになる。
「待てよ、あいつらどうして『最初からこの町』にいたんだ? フィオもエリクも、他の奴らもだ。スリートが言って気が付いたけど、誘拐事件が起こり始めたのはそれこそこの三か月以内だぞ?」
<……!? そういえば俺が俺だと認識したのもそれくらいですぜ。こりゃなにかあるのか……?>
「一度フィオ達に話を聞いてみるか。明日、事件調査部に来ることになっているし、もう少しここに来る時の経緯を知るべきだな」
「おにーちゃん、スリートいるー?」
「うおおおお!?」
<うおおおおお!?>
そこでノックも無しに結愛が入って来たので俺は慌てて胡坐をかいているスリートを投げ捨てると、見事にゴミ箱へと頭から突っ込んだ。
「あー、なんてことを!? スリート大丈夫!?」
<にゃ、なー……>
「もう、一緒に寝るから連れて行くねー」
「おう。可愛がってやってくれ」
連行されるスリートに手を振り、扉が閉まると俺はベッドに寝転がって先ほどのことを考える。
「……あいつら、前世の時どこまで『分かって』やっていたんだ……? 俺はともかく、もしかしてカレンを転生させるところまで出来レースだったとか……?」
だとしたら俺とミモリ、バリアスは完全に騙されての死に損だが、今の俺に調べる術はない。
「……」
俺は考えていたことを実行するべきかと、目を瞑り、そのまま意識が切り離されて眠りに落ちた。
そして翌日――
「おはよう、親父、母ちゃん」
「……」
「あれ? どうしたんだよ、朝から面白いテレビなんてあったか?」
「また物騒なことになってきたわよ」
「なんだ……?」
俺がテレビに目を向けると、朝のニュースが流れていて、それはこの町の出来事について語っていた。
『昨夜未明、繁華街で女性が倒れているのが見つかり、緊急搬送されましたが胸や腹など数か所を刺されており、間もなく亡くなりました。調べによると被害者はクラブで働く24歳の女性で――』
「これってキャバ嬢の殺人事件か?」
「みたいね。二人目の犠牲者らしいわ、今度は目撃者も居ないらしいけど恐らく同一犯じゃないかって近所の山本さんが言っていたわ。私もその見解で間違いないと思う」
「すげぇな……!? 犯人はサラリーマンってことか?」
「だな、若杉さんには情報提供して、別の部署が捜査に当たっているらしいが発見できていない。怨恨だとの見立てだが、接点がありそうな男が複数いて分からないんだ」
キャバ嬢故に、惚れられたりストーカー被害に合うなどはザラだからなと親父が肩を竦める。向こうとなにか関係があるとは思いにくいけど……一応探ってみるか?
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