戦闘開始
――魔族
向こうの世界で魔王と共に人間に戦争を仕掛けてきたという種族で、エルフやドワーフといった亜人種とは違い、好戦的で残忍らしい。
らしい、というのは俺が向こうにいた時点では復活の兆しがある、というだけで概要は分からなかったからだ。
しかし、目の前の相手は間違いなく人間の命などなんとも思っていないような文字通り悪魔という認識で間違いないだろう。
【人間どもをどこに連れて行こうが無駄だ。正体を知った貴様等を殺して聖女を生贄にするだけだ! <
「くそ……またそれか! おらよ!!」
フィオ達が八塚達を移動している間、俺は意識をこっちに向けさせるためその辺にあるものを投げつけて応戦していた。
だけど空を飛んでいるモーリジェンゴに届かないので、向こうの攻撃を緩和させるくらいしかできない。
「直接行くしかないか。フィオ、借りるぞ!」
「うん! エリク、急いで!」
「分かってんよ! もうちょっと待ってくれよ、援護するぜシュウの兄貴!」
俺は落ちていたフィオのレイピアを拾いながら声をかけ、何人かめを遠くへ運ぶ様子が見えた。今はこいつが遊んでいるが、いつフィオ達に襲い掛かるかわからない。
<く……我に力があれば……炎も吐けんし空も飛べん……何故だ……!>
「無理しなくていい、スメラギはフィオ達と一緒に居ろ! 行くぞモーリジェンゴ!」
【飛べるか、やるな小僧!】
レイピアを突き出すと、ギィンという鈍い音がし、ヤツの太い爪が喉元に迫った刃を逸らす。飛翔はそれほど使える人間は多くないので、モーリジェンゴの意表をつけたと思ったがそう甘くはないようだ。
【ふむ、人間にしてはなかなか……
「お次はこれだ! <
【むう……! チッ、できるな。シャッ!】
「硬い……!? あぶね!? だが、まだだ!」
【何……!?】
超至近距離で中程度の威力を持つ魔法をぶっ放してバランスを崩させ、右肩を狙うも、金属を叩いたような感じで弾かれ、
【ふふ、そのレイピアは鋼鉄製。業物だが魔族を切り伏せるには魔法金属でできた武器が必要だ、残念だったな。しかし、貴様、本当に勇者シュウか……? 魔法と剣技、そして身のこなしは確かに常人とは違う。こちらの世界に転生してなお勇者の力を持っているとは……】
「僥倖ってやつだな。ひとつ聞かせろ。俺がそっちに居た頃のモーリジェンゴと同一人物か?」
俺は距離を取り、レイピアを突き付けて気になっていたことを口にする。
少なくとも俺が旅立つ時に労ってくれたモーリジェンゴは柔和な笑顔で優しいおっさんだった。すると目の前の魔族は肩を震わせて笑う。
【くっくっく……なるほど、勇者かどうかはともかく向こうの世界の知識は持っているようだ。そうだな、同一人物ではない、と言っとこうか】
「おっさんをどうした?」
【我等魔族は変身の技を持つのだ。その方法は……】
「方法は……?」
残念な結末しかないだろうが、もったいぶる魔族の言葉を待つ。そして――
【その人間の肉を食らうことだ!】
<後ろだ勇者!>
「……!? ぐあああああ!?」
ふっと目の前から消え、スメラギの叫びに俺はすかさずレイピアを背中に回す。その瞬間、金属音がし、俺の背中に焼けるような痛みが走る。飛翔の維持が難しくなり、フラフラと落下しながらヤツをにらみつけた。
【クソ猫が……今ので確実に仕留めたとと思ったのによ! だが、傷は浅くないだろう?】
爪についた俺の血を舐めながら魔族が目を細めて笑う。余裕のつもりかと忌々しく思っていると、膝をついて着地した俺にスメラギが駆け寄ってきた。
<おい、大丈夫か!>
「ああ……回復魔法は使えるからなんとかな。だけど、あいつを倒す手段がない」
<むう……>
先ほどの一撃折れたレイピアを見せるとスメラギが呻く。
「……移動は、まだか……どうするかな……」
<せめて武器があればいいのだが、この世界にある武器は簡単には手に入らんからな……>
【なんだ、もう万策尽きたか? 勇者ならもう少し遊べると思ったんだがな。俺にもやることがある。さっさとお前らとエリクを始末して世界を繋げて、あの小娘と遊ばせてもらおうかね】
「フィオを……!」
【魔族と人間の交配で子は作れるんだぜ? まあ、生まれてくるのは全部魔族としてだが……な! <
「でかい……!?」
魔族から放たれた強大な炎の渦が俺たちに向かって突っ込んでくる! 今から横に飛んでもよけられる大きさじゃないし、走って逃げても追いつかれるだろう。
「万事休すか! せめてセイクリッドギルティがあれば……!!」
<!?>
「シュウ兄ちゃん!?」
フィオとエリクが叫んだ瞬間、俺達は炎の渦に飲み込まれ――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます