すべては過去からやってきた


 見覚えがある。


 空に浮いている男を見て俺は脳裏にその言葉がよぎった。確かこいつの名は――


 「止めろ、モーリジェンゴ! その人は勇者シュウだ!」

 「なに……?」


 ――そう、モーリジェンゴだ。陛下の相談役かつ、宮廷魔法使いだったはず。重役中の重役だけど、どうしてこいつがこっちの世界にいるんだ? 俺が考えを巡らせていると、モーリジェンゴが俺を見て口を開く。


 「勇者……やつはカイザードラゴンと相打ちになって無様に死んだんだ。まあ、おかげで封印が解け、始末する手間も省けたがな」

 「始末……するつもりだったんですか!?」


 フィオが驚愕した顔で叫ぶと、モーリジェンゴはにやりと口元をゆがめて語りだす。それも反吐が出るような話を。


 「ふん。一番の脅威はドラゴン。だが、勇者がドラゴンを全滅させた場合、次の脅威は勇者になる。恐らく、この世界に侵攻することを良しとしなかったろうから、どこかでひっそり死んでもらうつもりだったのんだよ。……聖女が一緒だったのは誤算だったがな」

 「てめえ、カリン様をどうするつもりだったんだ? それに侵攻ってのはどういうことだ!」

 

 エリクが声を荒げて尋ねると、酸を飛ばしながら言う。


 「口の利き方に気をつけろと言ったぞ? ……世界をつなぐ道を作るための生贄……のはずだった。まさかカイザードラゴンとの戦いに赴いているとは思わなかった……おかげで計画に狂いが生じ、十五年も無駄にしてした。しかし……」

 「?」


 残念そうに首を振るモーリジェンゴ。だが、すぐにくっくと肩を震わせて笑いながら口を開く。


 「しかし! 俺たちの計画はまだ続行できる! そこで倒れている少女……彼女は聖女の生まれ変わりなのです 我等の悲願が達成できる!」

 「そ、そんなことのために私達を送り込んだの……! 魔王を倒すためのヒントを探すためにと聞いていたのに……」

 「ん? どういうことだ? 誘拐をしているのはお前達じゃないのか?」


 フィオの言葉に違和感を感じた俺はフィオに尋ねる。すると、フィオは焦りながら首を大きく振った。


 「人を連れてくるのはそうだけど、私達がこっちの世界にいるためには魔力が必要だって……。そのために少しずつ魔力を分けてもらうために連れてきていたの」

 

 フィオの目と狼狽えようを見る限り、嘘はないように見える。すると沈黙を守っていたスメラギが一歩前へ出て喋りだした。


 <なるほど……この髭が大きく反応したのはお嬢や異世界の住人がいるから、というわけではなかったか> 「ん? 猫が口を利くだと……?」

 「どうしたスメラギ?」


 俺が近くへ行くと、スメラギはモーリジェンゴを見て目を細めて続ける。


 <勇者が我を倒しに来たこと、それ自体が人間の王が仕組んだ嘘だということは知っていた。故に、シュウを倒さねばならんかった。しかし、その王の裏に居たのがお前達なら納得もできるというもの>

 「……」


 スメラギの言葉を聞いて口元を曲げるモーリジェンゴ。そして、スメラギは最後の言葉を叩きつけた!


 <正体を現せ、魔族! 貴様等の目的……それは向こうの世界とこちらの世界の征服だろう!>

 「……!? まさか……!?」

 「側近のモーリジェンゴが、だと!?」

 「なるほどな、それならいろいろと辻褄が合う、か……」


 時系列で考えるなら、俺が旅立つ時、すでに潜り込んでいたということになる。もともとモーリジェンゴという男がいたのか、すり替わっているのか……どちらにせよ、こちらの世界に侵攻するための甘言。

 神託とやらで俺を選んだという神の言葉も怪しくなってきた。

 

 ――そして八塚。


 まさか俺と同じでカリンの生まれ変わりだとは思わなかった。スメラギが拾われたのは偶然じゃないってことか……?


 「く……くくく……クソ猫がよく吠えた……まあ、いいか。ここでお前たちを食っておけば怪しまれることもない。……ああああああああああ……!!」

 「な、なんだ……!?」


 モーリジェンゴが集中すると、工場が震え始め、エリクが冷や汗をかきながら膨れ上がる魔力に驚いていた。


 「う、嘘……」

 「フィオ、エリク! 八塚達を安全な場所へ連れていってくれ!」

 「う、うん……! シュウ兄ちゃんはどうするの?」

 「そりゃお前……あいつをどうにかするんだよ……」

 

 俺は不敵に笑い、一筋の汗を流しながらフィオに答える。

 すると、赤黒い鱗のような皮膚に悪魔のような翼をもつ魔族に変異したモーリジェンゴが笑う。


 【面白いことを言うガキだ。やれるものならやってみろ】


 さて、どうする……!

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