修と猫


 「こいつ……動いてるぞ……!?」

 「……」


 ここは確かに廃ビルのはずだし、電気をつけても点かなかった。だからエレベーターが動くわけが無いのだが、10……11……12……そして最上階である13階でランプを点灯させる。


 「は、はは……管理人か何かだよな? おい、ぶさ猫、そろそろ出るぞ。見つかったら面倒なことになる。お前も保健所行きは嫌だろ?」

 「ぶにゃー!」

 「うわ!? 飛び掛かってくるな!? あ、待て!」


 スメラギは俺に飛び掛かってきた後、階段を駆け上がろ始める。俺はエレベーターのランプを見た後、ダン! と足踏みをして走り出す。


 「~っ! 責任とれよぶさ猫ぉ!」

 

 恐怖半分、興味半分といった感じの俺。

 嫌な予感を覚えつつもスメラギが『何か』目的があって登っているような気がするので、興味の部分に惹かれて最上階を目指す。


 7、8、9と階段を登り、スメラギは今までと違い階の途中の部屋には見向きもせず上を目指す。先ほどのエレベーターの作動がビンゴだといわんばかりに。


 そして最上階の13階についたとき――


 「ふう……ふう……階段一気登りはきつい……ここが最上階。いったい……うぷ!?」

 「……」

 「……!? なるほど、了解したぜ」


 ――スメラギが俺の言葉を肉球で塞ぎ、首を廊下にそっと出して見ていたので、俺もそっと覗き込むと、少し向こうにある部屋に灯りがついていて、人の気配がした。……それも複数の。


 「……」

 「お、おい……」


 スメラギは何かを確信したかのように、ぴょんと廊下を出て歩き出す。俺も出ようとしたがスメラギは前足で俺を制すると、明かりのある部屋の近くの柱に移動する。しばらく見ていると、スメラギがくいくいと前足を動かして俺を呼び、不思議な感覚に襲われながら転がるように柱の裏へ移動する。

 その時、ガラスを踏んでしまいパキっという音が静かな廊下に響き渡ると、部屋の中から声が聞こえてきた。


 「……今の音は?」

 「誰かいるのか?」

 「にゃー」

 「なんだ猫か……」

 

 ベタなやり取りだが本物の猫が姿を現せばそれはネタではなくなる。それを目の当たりにして感動していると、スメラギが帰って来て、しゃがんでいた俺の頬をまた肉球で叩いた。


 (なにすんだよ!? ……てか、あいつら何者だ? パーカーを目深に被って怪しいやつらだ……)


 そっと柱の陰から部屋を覗くと、ガラスで仕切られたオフィスのような場所に、灰色と群青色のパーカーを着た、恐らく男が二人居た。それだけでも怪しいが、まだ不良やホームレスみたいな感じと思えば廃墟をたまり場にしているんだろうなと思う。

 だが、俺はよく部屋の中を見て目を見開いて冷や汗をかいた。


 (人がいっぱい倒れている……!? 死んでいる、のか?)


 窓越しから見える数十人という人間が横たわっており、パッと見どっちなのか分からない状態だった。しかし生死よりも重大なことが頭をよぎる。


 (あの人達、もしかして行方不明事件の人達じゃないか!? となるとあいつらはその犯人……!)


 ぶわっと俺の背に汗がにじみ、心臓の鼓動が速くなるのが分かる。もしかしたらあの中に八塚がいるのかもしれない……スメラギはそれを感じてここまできたのだろう。

 俺がそんなことを考えていると、二人組は立ったまま会話を続けていた。


 「見つけたのか?」

 「決まったわけではないが、それらしい子供を攫ったそうだ」

 「ふむ……今度こそ当たりだといいんだが……この世界には大気中に『魔力』が無いから不便で困る」

 「はは、煩わしいよな。ま、こうして誘拐した人間から補給できるからとりあえずいいじゃないか<搾取《アブソーブ》>」


 そう言うと、倒れていた男の背中に手を当て、何か文言を口にする。すると、男が呻きだす。表情は見えないが、とりあえず生きているようだ……

 だけど、ただの高校生の俺があの人たちを救出できる自信があるはずもないし、楽観もできない。

 ここは警察に連絡して踏み込んでもらうのが一番いいと、俺が考えた瞬間――

 

 ピロリローン♪


 ――メールかSNSか分からないが、何かの着信音が静かな廊下に響き渡る。


 「やはり誰かいるぞ!」

 (しまった!? こういう時に限ってサイレントにしてないとか!)


 ベタな展開が二回続くとはと舌打ちをしながら、着信音が鳴った瞬間俺は柱を飛び出て階段を目指していた。すぐに二人が部屋から出てくる気配がするが、振り返る暇も惜しい! エレベーターで一気に降りて警察だ! あの人数をそうそう運ぶことはできないだろ!


 「下ボタンを――」

 「<火の息吹ファイア>!」

 「おわ!?」


 大声と共に背後から嫌な予感がしたので身をかがめると、立っていた場所に火の玉が直撃し、エレベーターの扉が焼け焦げる。


 「避けたか、勘のいいやつだ。だがふたりから逃げ切れる――」

 「ぶにゃー!」

 「おう!? 顔に!?」

 「チャンス……!」

 「何やっている! 先に行くぞ!」

 「ナイスだスメラギ! あっちか!」


 こうなったら階段しかないと俺は来た道を戻るように階段に身を躍らせ、逃走劇が始まった!

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