始まりの日


 「――という訳で、来週からのゴォルデンウィィク! になるが、連休中は交代で小中高の先生たちが徒党を組んで町の見回りをすることになったから伝えておくぞ」

 

 八塚の家へ遊びに行った翌日、すなわち今日。朝のホームルームで担任の本庄先生が眼鏡とおっぱいを揺らしながら来週からスタートする連休について話しているのを聞いて、俺はあくびをかみ殺す。

 そうか、もうそんな時期かと考えていると、霧夜が手を上げて口を開く。


 「なんで先生はそんなにテンションが高いんですかね? で、徒党を組むってのは一体?」


 すると、本庄先生はチッという教師にあるまじき舌打ちをして霧夜に言う。


 「そりゃあお前、折角の休日に何が悲しくて町をウロウロせにゃならんのだ! それも良く知らない小中の先生たちと! それと先生たちが協力して子供達を守る……徒党と言わずしてなんとする」

 「やかましいわ国語教師!? どうせ休日って言っても家で酒飲んでゴロゴロするだけなんだしいいじゃな……痛っ!?」


 霧夜が座りながら呟くと聞こえていたらしく、チョークが額にヒットし蹲った。ちなみに霧夜はよく先生にツッコミを入れるのだが、あのおっぱいには夢が詰まっているからと言っていた。俺にはよくわからなかったのでとりあえず頷いておいたが。

 

 「少しスッとした。ま、そんなわけでおかしな事件も多いから、あまり出歩くなよー? 県外へ旅行にでも行った方がいいかもしれないくらい先生がウロウロしてるはずだからな。それじゃ、今日のホームルームはこれまでだ。三時間目を楽しみにしておけよ、坂家ぇ」

 「スッとしてないじゃないか……」


 嫌な笑みを浮かべて教室を出て行く本庄先生に口を尖らせる霧夜を見ながら俺は頬杖をついて考える。連休か……いつもなら真理愛が引っ掻き回して終わるのが常だが、外に出られないなら仕方がない。

 

 寝るかゲームしてゴロゴロするしかないな。真理愛はゲームが下手なのでゲームをしていたら結愛と遊んでくれるに違いない。


 ――と、思っていたのだが。


 「え? 別荘?」

 「そう! お父様やお母様には私から言っておくから、連休に行かない? 家族ごとでもいいわよ。結愛ちゃんと水守さんとまた話したいし」

 「わー! 行きたい行きたい! スメラギさんも連れて行くの?」

 「うん。村田さんはたまには休ませてあげたいから今回は無しで、ウチは執事と両親かな」


 昼休み、八塚が鼻息を荒くしながらそんな提案を持ってきたのだ。

 本当は町に遊びに出たいらしいが、昨今の事情によりそれは難しいため別荘ならと考えたらしい。


 「俺は構わないけど、結愛達には聞いてみないとな」

 「おばさん達なら大丈夫だよ! 多分!」

 「うちは両親が気後れしそうだから、もし行くなら俺だけかなあ」


 真理愛と霧夜も特に問題はないといった感じで返事をすると、八塚は満足気に笑顔で頷き、話を続ける。


 「オッケー、じゃあ帰ったら聞いておいて。真理愛の家族もね」

 「わかったー」


 真理愛がもぐもぐとおにぎりを頬張りながら返事をし、色々なものが決まる。退屈な休みになりそうだったけど、別荘のある場所は県外だから面白そうだと俺も顔には出さないがわくわくしていた。

 とりあえず三時間目の霧夜が不憫だったこと以外は特に何も無く、放課後を迎える。


 「修ちゃーん、帰ろー」

 「おう、校門まで八塚を見送ろうぜ」

 「この光景もすっかり慣れたな。……ま、男子達の痛い視線は慣れないけど」


 八塚と真理愛という二大美少女と仲良く話していることに嫉妬している男どもの目線が熱い、いや痛いぜ。ま、クラスのやつらとは別に仲が悪いって訳じゃないんだけどな。


 「怜ちゃん帰ろう! 出口まで!」

 「あ、興津さん。八塚さん、今日は早退していないわよ。五時間目の途中で急に帰ったの」

 「早退? お昼の時はそんなこと言ってなかったのに……」

 「具合も悪そうじゃなかったし、あの親父さん絡みかねえ」


 昼休みでは嬉々として別荘行きを語っていたので病気じゃないだろう。かといって俺達の別荘行きを急いで伝えに行ったとも考えにくい。あるとすればあの親父さんのことくらいだろうなと思う。


 「ま、居ないなら仕方ない。帰ろうぜ真理愛」

 「そうだねー。早く帰って結愛ちゃんとおばさんに話をしよう!」

 「興津は両親に話してやりなよ……」

 「ちゃんと言うよー」


 霧夜が呆れて肩を竦め、真理愛が口を尖らせて霧夜へ詰め寄る。そんないつもの光景。

 

 だが、翌日、思いもよらぬ出来事が起こる。そして俺の身にも。

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