アーロン

おれれお

プロローグ

 特殊仕様のヘリコプターから月明かりのない荒野に降り立ち、闇の彼方へと行軍を開始する。自らを含めて八人と僅かな手勢だが、今回の作戦概要を考えれば、極めて妥当な数だろう。というのも、ぼくらに課された任務は暗殺であり、多くの人手を動員すれば標的に悟られる危険リスクも増えるからだ。


 何を犠牲にしてでも、失敗は許されない。かつてのアメリカ合衆国は、世界的なテロ組織の頭領とうりょうを抹殺することに成功したが、息子であるアイサム・ビン=ナーヒドの存在を知らなかった。アイサムは父親の事例を教訓として引き継ぎ、各国の追跡から逃れながら見るも無残な事件を引き起こしてきた。史上最悪のテロリストだ。


 ぼくはそんな男を三年ほど追っていた。事の経緯はアメリカ合衆国が世界の警察官を降りて、三十年後ーー先進国の原子力発電所が襲われ、安全保障の危機にひんした時代まで遡る。


 二千四十三年。最も秀でた人工知能のバベルを持つ。多国籍企業メガコーポのシェアリングライフは、人間の頭部にブレインマシンインターフェースを埋め込むことで思考監査の実現に成功する。彼らは企業城下町に住む人々へ協力を仰ぎ、人工知能のバベルに思考を見守らせることで、混乱の時代に安全な社会と信用のできる生活様式を手に入れた。


 その噂を聞きつけた国連は原発テロという未曾有みぞうの危機を受けて、常任理事国の賛同の元、シェアリングライフと協力関係を結び、テロリストの思考をBMIで読み取り、アイサムの所在を突き止める前代未聞の計画を発足させる。

 各国から選りすぐりの隊員が集められ、ぼくもそのうちの一人として米国より部隊へ合流し、数多くの構成員テロリストを捕らえてきた。


 最初はテロリストを殺さず、生け捕りというのは想像よりも難しくて、中には犠牲者となって祖国へ帰還する隊員も多かった。

 彼らの失敗を無駄にしまいと駆け回り、ようやく成果が表れたのが、二千四十六年の十一月九日の現在。

 グリニッジ標準時、二十二時十三分。

 アイサム暗殺計画。インビジブル作戦がパキスタン辺境で決行されようとしていた。

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