心の欠片


 学校のサーバーに保存してあったファイルを、持ってきていたUSBメモリに全部コピーする。情報の授業で作成したもの、委員会で作った議事録、部活の日誌や練習メニュー、その他諸々。タイトルを流し見すれば、三年間の学校生活を凝縮したようなそれらに、別れの時期特有の複雑な気持ちが胸をよぎる。


 明日は、卒業式だ。丸三年過ごしたこの学び舎を後にして、各々自分の道へ進んでいく。学生である以上当たり前に訪れるそれはもう三回目なのに、何度繰り返そうが、未知へのの期待と別離の不安がごちゃごちゃになって涙が溢れてくる。

 センパイセンパイと無邪気に慕ってくれる後輩達に、教えたいことはもっともっと沢山あった。感謝も、激励も全く伝え切れていない。大学は県外だから、そう簡単に戻っても来られない。

 ここにオレがいたこと、三年間を過ごしたことは確かに事実なのに、ここに残して行けるものは驚くほど少ない。当然だ。一ヶ月後には、オレ達がいたところには後輩がそっくりそのまま入り込んで、そしてその場所でまた最後の一年を過ごすのだから。学校に残していけるものなんて、ほとんどありはしないのだ。

 痕跡として残ったのは、練習メニューの冊子、卒業生としての激励のメモ、部室にふざけて貼った一枚のシール。形に残るのはたったこれだけ。それも、二年も経てば誰のものか分からなくなる。

 あぁ、もう一つだけあった。コンピュータールームを後にして、無人の部室を訪れる。細々した小物が、分別されているのか分からない乱雑さで詰められている引き出しの、一番下。開ければ、制服のボタンがじゃらじゃらと詰まって、そこそこ重い。ボタンの足に、期数とフルネームを書いたプレートをはめて、部室の引き出しに保管しておく。いつからあるのか知らないが、ウチの部の伝統だった。明日には、十四人の同期のそれと一緒に、オレのボタンもここに入る。

 歴代の先輩達と三年間共にあったそれらは、一人一人の心の欠片のように、輝いて見える。

 オレのボタンは、後輩がここを開けたときに、先輩達と同じように輝くだろうか。卒業を惜しんでもらえる、そんな先輩に、なれたのだろうか。

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