始まりのゴールと先輩と後輩くん

ジュオミシキ

第1話

「後輩くん、君はゴールというものをどう思うかい?」

「ゴールですか?……ゴールだなあって思います」

「はぁ、これだから後輩くんはもうどうしようもなく後輩くんなんだよ」

「すいません」

「いや、良いんだ。こればかりは人それぞれで違った考えがあるからね」

「じゃあなんで僕一回がっかりされたんですか?」

「おや?君は後輩くんは後輩くんだという言葉をマイナス的に捉えているのかな」

「違うんですか?」

「ふふっ、君が君だというのを改めて実感してただけだよ。いい感じのね」

「なんだか釈然としませんが、一応は納得しておきましょう」

「そうするといい」

「あ、それじゃあ、先輩はゴールをどう思うんですか?」

「私かい?……そうだね、『終わりでもあり始まりでもあるもの』かな」

「終わりというのは分かりますけど、始まりですか?」

「そう。何事も必ずゴールはある、永遠に続いてほしいと願うことさえいずれは……。いったんゴールを迎えれば、そこに残るのは達成感、あるいは脱力感や喪失感。きっと今まで進んできた道のりを振り返るだけの者もいるだろう。戻る事もできずにただ振り返るのみ」

「それは、なんだか切ないですね」

「──けれど、それだけのはずも無いんだよ。スタートした頃のワクワクドキドキは、ゴールを目指したからこそなんだ。始まりは終わりを目指し、終わりはまた新たな始まりを迎える。そうしていくつものゴールが繋がって、始まりのあの場所へと還っていく。だったら、もう振り返っている場合ではないだろう?私は、ゴールに辿り着いた者がそれでもまだ前を向いているのはそういう事だと思うんだ」

「なんとなく分かったような、分からないような……。でも、なんだかいいですね。楽しそうです」

「ふふふっ。そういう所だよ」

「何がですか?」

「なんでもない。ただの、いつもの言葉さ」

「ゴールかあ、僕はあんまり考えた事ないですね」

「そういうのもありだと思うよ。『終わり良ければ全て良し』なんて言葉はあるけれど、やはり今この時の重要さも忘れてはいけないからね。実際はそう上手くはいかないけれど、誰だってまずはスタートも過程もゴールも全て良し、なんて夢を見ることから始まるんだ」

「そうですね、そうだといいですね」

「時に後輩くん。人に何かを聞くときは、いくつかの場合があるのを知っているかい?」

「知りたいことがあったり、他には確認のためとか会話のため、ですかね」

「いいや、君は一番大事な事を忘れているよ」

「大事な事?」

「もちろん、それは『聞きたいって思った場合』さ」

「あ。つまるところ、先輩が僕に聞いた事って」

「お察しの通り。ただ、君に聞いてみたかっただけなんだよ。いつも、君がどんな反応をしてくれるか楽しみなんだ。……似合わないかい?」

「いえいえ。それって、先輩は先輩って感じがして」

「感じがして?」

「なんだかとってもいい感じですね」

「ぷっ、なんだいそれ。変な答えだね」

「ちゃんと褒め言葉ですよ?」

「君はもっと女性への褒め言葉を学ぶべきだよ。もちろん私に対してだけの」

「どうせ学ぶなら、一般的に使える方がいいんじゃないですか?褒め上手は何かと世渡りが上手いって聞きますし」

「はぁ……君にゴールはまだ遠そうだ」

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始まりのゴールと先輩と後輩くん ジュオミシキ @juomishiki

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