夜と朝の間 (※えっち注意)
春嵐
夜と朝の間
夜と朝の間。
ほんのすこし、わずかな幻想。
眠っているのか、起きているのか分からない時間。
あなたに逢える。
まるで、違う世界にいるみたい。それでも、逢えているのなら。それでいい。逢える。それだけで。
「うぐ」
今日もまた、起き上がる。
ほんのすこしの頭の重さと、けだるい感じ。落ち着くまでベッドで目を
今日が始まる。
「おはようございます」
仕事先。
「おはよう」
先輩。
顔を見て、思い出すことがあった。
そう。
起きてからの頭の重さも、けだるい感じも。セックスしたあとの感覚に似ていたかもしれない。
「なんだ」
「先輩今晩空いてますか?」
「空いてない。なぜだ」
「空いてないなら、いいです」
この先輩に、セックスを教えられた。きたない行為だと思って忌避してきたものが、こんなにも心を安定させるのだと、知った。
そのかわりに。
欲望がひとつ。
増えた。
「昼めしなら空いてるぞ」
「いえ、いいです、もう」
彼にとって、私は遊びの相手なのだろうか。いまいち、判然としない。こちらの求めに応じてくれるけど、相手から求められたことはない。
それでも、セックスができるのならいいと思う。こうなるまでは、ニュースやドラマでぐだぐだと続けられいた色恋沙汰に興味なんて持たなかった。今では、ほんのすこしだけ、気持ちがわかる。気持ちいいから。
「はあ。だめだなあ私」
おなか。熱い。
結局、昼の時間を使ってセックスをした。
「どこがだ。何も悪いことはなかったぞ」
「先輩のお昼の時間を、私の欲望で奪ってしまいました」
「おたがいさまだろ」
「でも、お昼ごはんが」
私はあなたの液体を飲んだから、それでいい。でも、あなたは。お昼抜きで、しかも私に精力吸い取られてる。
「おまえの考えてることは、なんとなくわかる」
「そうですか」
「ばかげてるな」
「そうですか」
「じゃ、胸を出せ」
言われた通りに胸を突き出す。
「これでおたがいさまだ」
「何も出ませんけど」
「じゃあ、出せ」
「すいません。出ません」
べつに、下も出るほうではなかった。ベッドがぴちゃぴちゃになる作品とかを見て、なんとなく憧れるだけ。
擦れてしまわないように、いつも彼が入れる前に私の下腹部に出す。そのぬるぬるした感覚を徐々になじませて、それから行為が始まる。彼は、何度も出してくれる。私は、何度も満たされる。
「うっ。おえ」
夕方。トイレでえずいた。
お昼に何も食べなかったのが響いたらしい。何も出てこない。ただただ、えずくだけ。お昼の彼の匂いが感じられるかと思ったけど、そんなことはなかった。ただただ、えずくだけ。
「ふう」
「おい」
トイレを出たところで、先輩に出くわした。
「顔色がわるい。帰れ」
「まだ仕事残ってます」
「どうせ昼抜きにして気持ちわるくなったんだろ」
その通りだった。
「帰れよ。残りは俺がやる」
「夜」
「あ?」
「時間、ありますか?」
「ねえよ」
そういえば朝も訊いたのだと思い出して、謝った。
「仮眠とってこい。お前が寝て起きたら、時間とってやる」
「でも」
「聞いたくせに、やめんのか?」
「すいません」
「すみませんで済むならいいけどな」
戻って少し仕事を片付けようと思ったけど、先輩におなかを軽くしぼられて身体の力が抜けた。そのまま、仮眠室へ放り込まれる。
されるかと思ったけど、されなかった。ひとりでして、そのまま眠った。
「あ」
下腹部の温かさで起きる。
「ちょっと。寝てるときにするなんて」
「時短だよ。ほら。めし食いに行くぞ」
もう、終わってしまっていた。
少しだけ、切ない気分。
「おい。めしを食え。酒は呑むな」
「いやです」
酒を頼んだ。どうせ吐くんだから。おいしいほうがいい。
「なんでそう、なげやりなんだ。もう少し身体を大事にしろ」
「私が寝てる間に、私を使ってるのに?」
「起きないように優しくしただろうが」
「どうせ妊娠しないんだから、起きなきゃ」
私が感じなきゃ。意味がない。
「あっ。おい」
出てきた酒を先に奪い、呑む。
「はあ。おいしい」
「胃が焼けるぞ。何か食え」
差し出されるままに、食べる。いか焼き。焼き鳥。野菜とねぎの何か。
「馬刺をください」
「なまものはだめだ」
頑なに、なまものは分けてもらえなかった。そのかわり、お酒は許されたらしい。緩く、呑む。
「先輩」
「あ?」
「いえ」
あぶなかった。酔うと、いつもこうなってしまう。口に出してはならない問いを、言いそうになる。
私は。
あなたの。
恋人ですか。
訊けなかった。
拒否されてしまったら。
私は、セックスの相手を失ってしまう。
せっかくの彼の愛を。受け止められなくなる。
いや、これは、愛ではないのかもしれない。彼には、恋人が、いる気がする。なぜか分からないけど、彼には、きっと、愛するひとがいて。私のことは、見えていない。
「欲望」
そう、欲望。先輩が立場を使って後輩に与えてくる、一方的でぴちゃぴちゃした、欲望。
眠くなってきた。
酒が回ったのかもしれない。
「私は、先輩にいくら満たされても、かまわないです」
それだけは、回らない舌で、かろうじて言えた。
どうでもいい。
遺伝子なんて。
私の代で途絶えるのだから。
どうせなら、好きな人間の好きな遺伝子で。
満たしてほしい。
目を閉じた。起きれば、また、明日が始まる。どうせ、頭が重くて、けだるい感じのする。そんな明日が。
彼の腕のなかで眠りたかった。
許されないのかもしれない。そんな、わずかな思考も。眠りのなかへ落ちて、消えていく。夜と朝の間に。
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