ゴール

中川さとえ

GO-AL

チャンス…チャンスダ……

チャンスガクルよ…


誰…?

誰の声……?


目が開かない…殴られたのかな…

潰れたのかな…

それとも溶けたのかなぼくの目、


チャンス…チャンスナンだヨ…


まただ。なんなんだろう。

いやだな…

ほっといてよ…


細い窓かな…

糸の間…?


そうか。


目が開いたんだ。


でも見えない。

ナニも見えない。

開いただけ無駄だった。

どんより濁る。


それは世界?

ぼくの目玉?


見えないなぁ…、


ぐ…なに!?

押さないで…


goalgoalgoal…


なに、こいつ。キモチワルい。


goalgoalgoalgoalgoalだょ

終わるんだ終わるんだ終わるんだgoalgoalgoal終われ終われ終われ終われ終われ


んん、キモチワルいなぁ、

こいつ。

避けれないかな、よけよう。あー、だめかぁ。

あっちいけよっ!


あ、ごめん、殴る気はなかったんだ

手を、振っちゃった

こんな狭いのに。

ごめんな、ごめんね。


goalgoalgoalgoalグルグルグル…


キモチわる、

アタマおかしいんだ。

ほっとこ。


ああっ!…た、

だからっ!押すなよっ。


うわっっ!

…ぼく、足から遡ってる?

なんだここ。ああ、ほんとうにイヤだ。


うああ、なんでそんなにぶよぶよなんだよ。そばにくんなよ。


うわぁ、くっつくなよ、臭いんだよ、ねちっこいんだよ、なんだよおまえらっ。

なんだよ、…なんなんだよ。



…やまるわけないか。


これ、なんかの罰なんかな…。ぼく何をしたんだろう。

いや

ナニモシナカッタからかなぁ。

でも、まださ、どこにもいけてないから。

ナニもできてないよ。


…ああ、もういいや。

もうそれでいいや。


罰でいいよ。


だから

はやく仕留めておくれよ、


chancechancechancechance


なに…?


chancechancechancechancechance


だからなに、

う、


どんどん詰まってきてる

キモチワルい、イヤだ、

無理だ、そんなに、まだ詰めるのか…?

ぐ…ふ…息が……、

僕は、…どうせなら楽に死にたい…。


chancechancechancechancechancechancechance


だから、なに…?



爆音

世界が弾けた。


押し出される凄まじい並、

凄まじい圧、溢れる僕ら。

逃げれる?逃げれる?

逃げれるのか?

意思とか意志とかわからない。上も下もわからない。

後ろには…戻れないか。

じゃあ前だ。


僕は走ってる?泳いでる?

わからない、こっちが前で合ってるのかな。


何人いたんだ?何十人か?もっとか?だからあんなに重なってたのか。

僕たちは何をしてるの。

逃げてるの?

後ろからどんどん壊れてるの?それとも腐っていくの?

それとも


もしかして


レースなのか。


goalgoalgoalgoalgoal


あのキモチワルい奴の声。

あいつ、どうした?


そうだ、最初の轟音で引き裂かれた。

千切れて漂ったら皆に踏まれた。かけらももうない。

goalgoalgoalgoalgoal

ゴールか

さっきの爆音がスタート

そしてこれがレースなら

ゴールはあるはず。

goalgoalgoalgoalgoalgoal

ゴールには

何があるんだろう。


あいつ噛み千切られた。

あっちは引き裂かれてる。

なにやってんだ、

なにやってんだよ

咆哮 怒号 罵声 悲鳴

断末摩 呪詛

イヤだ…!

こんなとこイヤだ。


けど、レースから降りても出口がない。

出口…ない。


僕の手、まだある。

足もある。

走ろう、goalだ。goal。

きっとどこかにゴールがある。

走ろう…!


暗い、ずっと暗い。

僕、見えてるのかな。

かすんでるのは世界ではなくて僕の目か…?

僕は走ってるのかな

僕のからだ あるのかな


顔面、がつんとぶつかった。

殴られたのかと思ったけど違った。


行き止まりだ。


…僕は道を間違えた、


そんなことあるんだ…。


横を見て気がついた。


間違えたかもしれないけど

それは僕だけじゃなかった。


何人もが行き止まりにアタマを叩きつけてる。


みんな、アタマおかしすぎる…、


ほら、割れて血まみれだ、

あっちもこっちも…


僕も頭を行き止まりに叩きつけた。

無性に叩きつけたくなったんだ。

これでここで終わってしまえ。

僕は僕を僕が終わらせる。

全力で頭を叩きつけた。


そのとき。

僕はするりと入った。

なぜかわからない。

行き止まりは、

僕のアタマを通して体を通して、

そして何事もなかったように塞がり行き止まりに戻った。


だから、僕は僕を終われなかった。


chancechancechancechance

聞こえたような気がした。

けどなにもない。



行き止まりは球体みたいだけど、なかはなにもなかった。


これがゴールなのか…?

ゴールは空(から)なのか。空っぽなのか。

空(から)を手に入れようと殺しあってたのか?


足元に。

なにか ある。


拾った。

銃だ。

ぺらぺらの軽い短い銃。

弾丸がひとつだけ。


なんだ、それ。

お口にくわえて引き金を引け、てか。


はははははははははははっ


ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな!


僕は銃を構えた、

内側からだけど

このムカツク行き止まりに

一発撃ち込んでやろうと思ったんだ。


トリガーを引いた。


号砲が鳴った。号砲だ。


行き止まりの球体はゴロんゴロんと転がりどこかに着いた。

中に僕を入れたまま。


そしてどんどん僕に迫って、やがて僕の手を足を頭を取り込み始めた。

それが…不思議に心地よかったんだ。

そうか。融合だ。僕は吸収されるでなくて、融合するんだ。

号砲は スタートの合図。


全体取り込まれた。もうじき脳も融ける。


僕は宇宙を取り込んで新しい世界になる。

このレースは新しい世界へ出れるではなくて、

僕が新しい世界になる、だった。


ほんのり温かくてほんのり明るい。

脳が融けていくのがわかる。


さいごにひとつだけ、

僕わかったよ。

ゴールって、ない んだ。

空ではなくて ない んだ。

だから、

ゴールとされるそこには、

達成も安寧も至福も

なにもない。ほんとはね。


ゴールとされるそこにあるのは

次のスタート

ただそれだけ。


ああ、もうなにも見えないし聞こえない、考えも…とまる、き…え…。



卵管を緩やかに転がりながら分割を繰り返した受精卵は無事に着床し、誕生へと向かう健やかな歩みを、始めた。












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ゴール 中川さとえ @tiara33

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