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ケーエス

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 さあ、今日も書こう。今日はどんな話を書こうかな。


 あれよかったよね。実は○○かと思ったら○○だったっていうやつ、叙述トリックっていうんだっけ。ああこの前書いたんだっけ。「うまいです!」なんて言われて嬉しかったなあ。応援コメントってマジ補給艦だよね。あれあるのとないのとでは全然違うよね!


 ……あ、そうか今日はあれだなどうしようかな、うーん最後だからやっぱ感動的なやつとかにしたいよなうーん。悲しい作品が一番ヒットするのって喜んでいいのかな? まあいっか。

 よし、とりあえず適当に題を決めてボタンを押したらなんとかなるだろ! ポチッ


「保存して新しいエピソードを書く」




「つまりですね。休日を通して私が申し上げたいのはこちらです!」

 僕は背後にある巨大スクリーンを指さす。

 画面には『人間空白を何かで埋めようとしがち』と仰々しいフォントの文字が映し出されている。


「みなさん、休日に空白があるとそわそわしませんか。何かをやって休日を充実させようと思いませんか? 自分の恋人枠に空白があるとそわそわしませんか? 恋人作らなきゃと思いませんか? 夜突然目が覚めると起きてしまった意味を考えないですか? これからお化けでも現れるんじゃないかって」


 僕は目の前の聴衆を見渡す。前方は頷いてくれているが、後方はというと……。



「うわー。今日もダメだった」

 楽屋で頭を抱える僕。そこに作家仲間の後輩がやってきた。

「失礼します……。あれ、どうしたんですか?」

 なんていうタイミングだ。人が落ち込んでいる時に限ってこの人はいつもやってくるな……。

「どうしたってまたプレゼン上手くいかなかったんだよ。来てくれるんだけど伝わらない」

「まー作家なのにプレゼンさせてもらえてるだけでいいんじゃないですか。そのうち伝わりますよ」

「そうかな……。てか今度は何の用?」

「この二人から今度家にこないかという誘いが来てますよ」

 彼が差し出した封筒の中には住所が書かれた紙が書かれている。

「なんでわざわざこんなことを……。スマホでやればいいものを」

「どうやらスマホが壊れたらしくって。じゃあどうせなら小説家っぽいやり方で伝えようというわけです」

「これが小説家らしいのかね」

 僕はペラ紙一枚をひらひらさせた。

「まあ細かいことは置いといて、会いに行ってあげてください。私はこの辺で」

 彼はきびすを返して行ってしまった。

「ホントに嵐のように去る男だな……」


 封筒に紙をしまい、リュックサックを背負うと、ふとTVの画面が気になった。

 速報である。

 全裸の老人が暴れまわり大量の犯罪を犯しまくったというニュースである。

 こんな雨の日に……?

 しかも容疑者の名前見覚えあるぞ。ちょっと前にドッキリ番組でご一緒したような……。陸上経験者っていってるから間違いないな。

 家まるごと移動させるっていうドッキリはもうドッキリの範囲越えてたよな。

 昭和の時代でもやらなかっただろうに。



 電車に乗った。まだまだしがない作家の僕はタクシーなど使っていられない。

 今日も歴史もののスマホゲームで暇つぶしだ。

 課金して手に入れた「天草四郎」が強すぎて逆に面白さ無くなってるけど、このパズルしながら敵の攻撃をかわして、音楽に合わせてタイミングよくタップする「聖徳太子アクション」がたまんねえよな。ほんと腕八本ぐらいほしいよな。目も3つほしいな。肌はそのままで。そういえばそんなコメディー映画あったな。


「どわなくろーずまいあーい♪」

 みんながとっさにこちらを向いた。目の前のカップルもこちらを凝視した。

 しまった。いつのまにか独り言が口から出ていた。いや、ここでは独り歌かな。

 いやそんなこと言ってる場合じゃない。くそう降りる駅はもうちょっと先なのにい!


「で、ねこってかわいくないすか?」

 目の前のカップルの女子が男子の方に向き合って話を再開した。みんなも元に戻った。

「ちょうどよかった。今日はこの詩を読むんだわ」

 男子が本をカバンから差し出す。本にはちょっと奇抜なタイトルが書かれてある。

「なんですかこれ? 今日はこれが研究対象ですか」

「ああ、そうや。この詩からは面白いことが伝えられる」

「また先輩意味が分からないこと言うつもりですか?」

「うるさい! これはだなその……」

 顔を真っ赤にしている彼もまた、人に何かを伝えるために苦労しているってわけか。世界には似たようなやつがいるんだな。

 そんなことを考えている間に目的の駅に着いた。

 まだ顔を真っ赤にしたまんまの彼を横目に電車を降りた。



 一軒家に着いた。すっかり日も落ちた。チャイムを鳴らす。

「はーい」

 女性の声が聞こえた。

 ガチャっと音がして玄関からこれまた大人のカップルが顔を出した。

「いらっしゃい」

「さあどうぞ上がってください」


 ラブラブなお二人さんと鍋を囲む。

「いやあホントにお二人さんは仲がいいね。羨ましいよ」

「当然じゃないですか。こんなに私の心に残る作品を書ける作家さんはいませんから」

 肉団子を頬張る愛らしい彼女。

「まさか好きが高じて作者自身と付き合っちゃうとはね」

「もしかして作品なかったら僕は捨てられちゃうの?」

 心配そうな顔をしてご飯を膝に落とす彼氏。

「違う違う。ちゃんとあなたに惚れてるよ」

「ひゃあ。アリガト……」

 彼は美人な彼女に見つめられて顔を真っ赤にした。あれ、この風景2回目では……?

 そんなとき、2階からコトンと音がした。

「あれ、除霊済んでなかったんですか?」

「何回もやったんですけどね。ここの少年の霊は未だに未練が残っているみたいなんで」

「へー。もしかしてそういうの平気?」

「んまあね……」

 カップル同士見つめあった。おいおい、こんな状況でなんでいい感じになれるかな……? まあ羨ましいけどさ。


「で用件っていうのは何でしょう?」

 僕が気を取り直して尋ねると、二人はこちらに向き直って背筋を伸ばした。

「僕たち」

「私たち」

「「結婚します!!」」

 誰もいないはずのトイレの水が流れる音がした。

「こんなホラーな結婚報告あるかね?」

 僕は苦笑いした。


 二人がそろそろ限界に達してしまいそうだったので僕は結婚式に出る約束をして愛の巣を出た。

 今日も月がきれいだなあ。



 マンションの自宅に帰り、ベランダに出た。

 今日も耳を澄ませば聞こえてくる。遠い宇宙の彼方から誰かが自分を呼んでいるような、そんな歌声が。


 今日はいろんな人に出会った。すれ違った一人一人に、大事な人にも、憧れの人にも、推しのあの人にも、ちょっとムカつくアイツにもそれぞれの物語が隠されている。

 それぞれの物語をみんな必死になって生きている。

 今とても幸せな人もいれば、今とてもつらい思いをしている人もいる。

 人と人が出会うことでそれぞれの物語が重なり合い、新たな一章が誕生する。


 でも他人の人生なんてそう簡単に読むことはできない。

 たいがいみんな人に見せたくないページを持っているし、中には破り捨ててしまう人もいる。

 そもそもそこまで無理やり介入すべきことでもないのだ。


 ただ、他人の人生を架空であっても読むことができる物語がある。


 それが小説だ。

 小説には作者自身の個性や生きざまが露骨に現れる。

 いくら異世界転生しようがありえないヒロインが出てこようが、作者自身の価値観だったり信条は現れる。

 だからこそ面白い。こんな物語があるのかと。ワクワクしてページをめくる。

 読んだ後、いつまでも心に残り続ける物語もある。そこに☆の数など関係ない。


 だから自分の人生も、自分の物語もできるだけワクワクしていたい。


 じゃあ明日の物語に備えて寝ようかな。ベランダから戻り、いろいろ済ました後ベッドに潜り込む。


 十年後の人生なんてわかんないもんな……。


 気づけば眠りについていた。

 今日も月がきれいに瞬いていた。






「公開」

 ふう。なんとかなりましたね。ジャンルはもうぐちゃぐちゃですけどね。

 ということでみなさんKACお疲れ様でした。ホントにみなさんとの出会いに感謝です。

 え? お題の「ゴール」が入ってないって? いいや、ゴールしたじゃないですか。皆勤賞? 違いますよ。誰かがゴールしたでしょう?

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