答えのハッキリしない問題
田村サブロウ
掌編小説
カクは数学が好きだ。
いや、正確に言うと数学というより答えがハッキリする問題が好きなのだ。
なぜなら数学や物理といった数字のからむ教科は、一定の公式にあてはめて計算すれば必ず答えが出る。公式という必勝法を覚えさえすれば、あとはどんな問題もその応用で回答が出せるのだ。
逆に、答えのハッキリしない問題は大の苦手としていた。
たとえば、人によって採用時の応答が変わる就活の面接とか。
「カク。面接、また落ちたんだって?」
「そうなんだよ、ライチ。これで就活7回連続で失敗だ」
カクは大学食堂でカレーを食べながら、友人のライチに愚痴っていた。
「まったく、一体どうすれば正解なんだ?」
「自分のことを素直に話したらいいんじゃないかな? 模擬面接を見せてもらったけど、どうもカクはマニュアル通りにやり過ぎてるきらいがあるよ」
「むぅ? じゃあ、マニュアル通りに見られないようにするためのマニュアルを自作するか?」
「いやいや、だからマニュアル云々じゃなくて、もっと自分を見せないと。でないと面接官も相手の内面がわからなくなっちゃうから!」
「自分?? 内面?? うぅ~、わからん!」
カクはテーブルで数秒頭をかかえてから、学食のカレーをやけ食いしていく。
「まったく、面接の絶対的な正解も計算でちょちょいと出せたらいいのに!」
「あはは、カクは計算や暗記は得意だからね。けど、数学にだって答えのハッキリしない問題はあるよ?」
「ハッ! 冗談が上手いな、ライチは。んなもんがあったらぜひお目にかかりたいもんだ」
カクはライチの発言をあしらってカレーを食べ続けていく。
その適当な態度にカチンときたのか、ライチはこめかみをひくつかせながらカクにこんなことを言い出した。
「じゃあ、カク。数学の問題。円周率を全部答えて」
「ああ、計算すれば楽勝だ。3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944...」
* * *
この数秒後、カクは鼻血を吹いて椅子からぶっ倒れ、食堂でちょっとした騒ぎを起こすことになる。
倒れたカクはダイイングメッセージのつもりなのか、血文字で「π」と書き残したらしい。別に死んでないけど。
答えのハッキリしない問題 田村サブロウ @Shuchan_KKYM
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