22.来る理由


 週初めの当番は問題なくやれている。たった一つを除いては。


「やぁ、猫ちゃん。今日も可愛いね」


 この人である。

 

 二年生の光先輩。この人はなんで毎回来るんだろうか!


「会えて嬉しいよ」

「先輩は毎日図書室に来てるんですか?」


 よくぞ聞いてくれたとばかりに嬉しそうな顔をする。


「いや? 毎日なんて来てないよ。猫ちゃんに会いに来てるだけさ」


 ハハハと笑いながらそう答えた。


「猫ちゃんがこの日にいるって知ってるからね」


 怖い! この人怖い! 


「まぁ、陽に聞いただけだけど」

「なんで一条先輩が知ってるんでしょうか」


 これを聞いた私の顔は相当強張っていたのだろう。


「大丈夫大丈夫、俺も陽も猫ちゃんのストーカーじゃないから。何かの話の延長で、陽がさやかちゃんから聞いたって言ってたよ」

「な、なるほど」


 それにしても、一条先輩もよく覚えているものだ。しかもそれを光先輩に話してしまうとは。


「そんなわけで来てます。ちゃんと話題も持ってきたんだよ」


 若干引き気味な私。


「今日はまず高校最初のテストの話。どう? 意気込みは」


 会話の内容は普通だった。


「得意じゃないので、ちょっと心配ですね。一応やってはいるんですけど、分かっているのか分からないというか」

「じゃあ、俺が教えてあげる。放課後二人きりで勉強しよう?」

「遠慮しておきます」

「返事が早いねぇ。じゃあ、もう一つの話。お祭りは行く?」


 今とても気にしている話題。決してデートではないはず。


「行きますよ」


 誰と、とは言わない。


「それは男の子とかな」


 動揺した私を先輩は見逃さなかった。


「男の子かぁ。残念、俺も誘おうと思ったのに。もう今日は撤収」


 そう言うと、背を向けて歩いて行ってしまった。


 図書室を出る直前に振り向き、笑顔でこう言った。


「年上とのデート楽しんでね」


 なんでバレてるんだぁぁぁ。



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