15.呼び方

 二回目の図書当番が始まった。今日も春野先輩と一緒。前回は、誰かに対して貸し出しを行わなかったから、今日が初陣と言ってもいい。


 当番が始まって数分、借りに来る人が現れた。


「猫宮さん、出来そうかな?」


 先輩にそう聞かれ、大丈夫ですと大きく頷いた。


 学年・クラス・出席番号を聞きパソコンで検索、名前が出てきたところで本のバーコードをスキャン。画面に本の題名が出て貸し出し中と表示された。貸し出し期限を伝え、本を手渡す。


「で、出来た!」

「わぁ、初仕事達成だね」


 パチパチと拍手をしてくれた。


「もう貸し出しは一人でも出来そうだね」

「そうですね。でももう一回くらいはすぐにやっておきたいところです」


 しかし、なかなか次の人が来ない。


「今日はもう終わりなのかな」

「そうかもしれませんねぇ……」


 そう言いながら、遠くを見つめていた。


 すると、遠くからテンポよく歩いてくる音が聞こえてきた。貸し出しの人ならいいな、と思っていた。


「ちょっと僕は棚に本を戻してくるよ。何かあったら呼んでね」

「分かりました」


 きっと一人でもどうにかなるに違いない。


 入ってきたのは、宇佐見先輩。どうにかならないかもしれない。


 私に気が付いた宇佐見先輩は、にこにこしながら近付いてきた。


「やぁ、猫ちゃん、元気かい?」

「え、まぁ、はい、そうですね」

「あまり元気そうには見えないけど?」


 それは先輩のテンションについていけないだけです、とは言えず。


「当番がまだ二回目なので緊張してるんですよ」


 腕を組んでうんうんと頷く先輩。


「じゃあ、俺が手伝ってあげよう。なんか本持ってくるね」


 ちょっと待ってと言う間も与えず先輩は本を探しに行ってしまった。


 少しすると、一冊持って戻ってきた。


「それでは、これを借りたいんですが手続きしてくれますか? お嬢さん」


 受け取った本は、気持ちの伝え方という本。本にまで先輩の生き様が出ている気がする。


「これですね。それでは学年とクラスと出席番号を――」


 それらを打ち、本をスキャンして貸し出し手続きは完了。


「出来ました。どうぞ、宇佐見先輩」

「ありがとう」


 本を受け取っても帰ろうとしない先輩。


「どうしたんですか?」


 悩むような仕草をしている。


「それがね、猫ちゃん。俺の名前を知ってるはずなのに名前で呼んでくれないレディがいるんだよね。その子にどうやって呼んでもらおうか考えていたんだ」


 そのレディは私のことでしょうか? とは聞かず。


「そうなんですねー」

「ちょっと、猫ちゃん分かってるでしょ? さぁ俺を光君と呼んでくれ」


 無理難題。


「流石にそれは無理があります」

「しょうがないな。じゃあ、光先輩でもいいよ?」


 きっとそう呼ぶまで帰らないような気がしてきた。


「えっと、じゃあ、光先輩」


 嬉しそうな顔をして、「はい、光先輩です!」と言った。


「よし、目的も果たしたし帰るねぇ。またね。猫ちゃん」


 そう言って図書室から出て行った。嵐のような人だ。もしかして、私がここにいると分かって来たのだろうか。


 あ、猫ちゃんと呼んでいることについて聞くのを忘れてた。


「お疲れ様、一人でも出来たね」


 春野先輩が戻ってきた。


「はい、なんとか……」

「あれ? 早めに戻ったほうがよかったかな? 仲良さそうだったから大丈夫かなって思って」


 どうやら春野先輩にはそう見えていたようだ。


「いえ、大丈夫です」


 こうして、私の二回目の当番は終わったのだった。



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