第31話 犯人は誰? その2
その頃、鍛治田は保安室で監視カメラの映像を見ていた。
画面には、少年が会社の郵便ボックスに先程の白い封筒を入れている姿が写し出されていた。
この少年はおそらく報酬をもらってやっただけだろう。
この少年を探すか?
いや、彼を見つけて話を聞いたところで、犯人の特定は難しい。
これ以上は無理か。
突然、ポケットの中にあるスマートフォンが震え出した。
手に取ると、そこには「日沖探偵事務所 上井」と写し出されていた。
鍛治田は部屋を出て、人が周りにいないことを確認してから電話をとった。
「もしもし」
「もしもし。おはようございます。日沖探偵事務所の上井です。今、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。何か進展があったのですか?」
「はい。このあいだテナント企業を調べた件ですが、ホームゲートウェイにマルウェアが仕込まれており、そこから情報が抜かれていました。抜かれた情報は寺越というフリーのプログラマーの自宅に行っていたのですが、現在、彼は警察が闇カジノにガサ入れした時に捕まり、取り調べを受けている最中です」
「では、彼から話を聞くのは、難しいのですね」
「はい。ですが、私たちがビルを調べた時にいた登野城警備保障の人間の中に、マルウェアを仕込んでいる者がいると我々は見ています。そこで、その人物を特定するため、鍛治田部長にぜひ力を貸してもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」
「もちろんです。私にできることなら、何でも協力します。ただし、一つ条件をつけてもいいですか?」
「なんでしょうか?」
「犯人をすぐに捕まえてもらいたいんです。実は今日、重則君がディーラーをしている時の写真が、会社に届きました」
「誰が送ってきたか、特定できそうですか?」
「いえ。今、監視カメラで確認したのですが、会社の郵便ボックスにその写真が入った封筒を入れる少年の姿が映っていました。残念ながら、これ以上、追うのは難しそうです」
「分かりました。ではこの後、すぐに会えますか?」
「1時間後、私がそちらにうかがうという形でよろしいでしょうか?」
「もちろんです。お待ちしております」
「では、後ほど」
鍛治田は電話を切り、日沖探偵事務所に行く準備を始めた。
1時間後、約束通り、日沖探偵事務所に鍛治田部長がやって来た。
上井と日沖は、応接室にて鍛治田と応対した。
「それで私は何をすればいいのですか?」
あいさつの後、鍛治田がすぐに本題に入って来た。
上井は鍛治田のこの問題に対する気持ちの強さを感じつつ、ゆっくりと説明し始めた。
「この間、我々がビルの中を調べた時、登野城警備保障の社員が3人いましたよね?」
「はい」
「彼ら3人が新規のテナントをまわる日を教えてもらいたいんです。ローテーションから言って、彼らがマルウェアを仕込んでいる可能性が高いと思われるので」
「分かりました。ちょっとお持ちください。今、調べますから」
鍛治田はカバンからノートパソコンを取り出し、キーを叩いた。
「ああ」
鍛治田が突然、顔をしかめながら声を上げた。
「どうしました?」
上井は理由をたずねた。
「新しく入るテナントが、しばらくないんです」
「そうですか」
「では。我々が新しい事務所を借りるというのはどうでしょうか? その方が色々と細かな許可を取る必要もないですよね?」
上井の隣に座っていた日沖が、鍛治田に提案した。
「それ、とてもいい案です。明日までに用意できます」
「では、その作戦で行きましょう」
「はい。すぐに手配します」
日沖にそう言葉を返すと、鍛治田はすぐにポケットからスマートフォンを取り出し、あちこちに電話をかけ始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます