第23話 一夜明けて

宇留嶋の予想通り、その夜、闇カジノに警察が踏み込んだ。


捜索は警官を20人以上投入した大規模なもので、マスコミにも朝から大きく取り上げられていた。


警察の捜索から一夜明け、上井たちは柵木裕美子の家をたずねた。


家には柵木祐美子のほか、息子の柵木重則もいた。


上井と冨田、柵木祐美子と重則は、それぞれ向かい合う形で居間のソファーに腰掛けた。


「もう一度、あたらためてお礼を言わせてください。今回、息子を助けていただき、本当にありがとうございました」


そう言って、柵木祐美子は丁寧に頭を下げた。


「僕からも改めてお礼を言わせてください。本当にありがとうございました」


柵木重則も同じように頭を下げた。


「いえいえ、我々はただ依頼された仕事をしただけです。お礼なら谷本優佳さんに言ってあげてください。今回のことは、彼女がいなければ我々も分かりませんでしたから」


「もちろん、彼女にも直接会って、お礼を伝えます」


柵木祐美子はすぐに返事をした。


「それよりも、重則さん。その後、闇カジノの関係者から連絡はきていませんか?」


上井は、今日はきちんとした態度で柵木重則に話しかけた。


「はい、大丈夫です。スマートフォンも電源を切ったままです」


「もし関係者の誰かがあなたに接触して来たら、すぐにこちらに連絡をください。そして、やり取りはなるべく避け、返事は全て『分かりません。後から連絡します』で通してください。いいですね?」


「分かりました」


「それと、もう一つ。我々はどうしても重則さんに確認しておかなくてはいけないことがあります。闇カジノの場所は、誰から聞きましたか?」


「えっ?」


上井の質問に、柵木重則は顔をしかめ、とても答えづらそうな様子だった。


「どうしても、言わなくてはいけませんか?」


「はい。もしかしたら、今回の件でその人が脅されている可能性もありますから」


「父の会社にいる鍛治田総務部長です」


「彼が教えてくれたのですか?」


「はい。でも、僕が無理矢理聞いたんで、鍛治田さんは責めないでください」


「重則さん。私に彼を紹介してもらえませんか?」


「えっ? 会って、どうするんですか?」


柵木重則がすぐにお願いを質問で返して来た。


鍛治田を守りたいと思う彼の気持ちが、十分に見てとれた。


「会社の情報が抜かれているかもしれないので、その件について聞いてみたいんです」


「それは鍛治田さんが情報を持ち出しているという意味ですか?」


「それも含めてです。重則さん。お父さんが今、会社のことで大変心を悩ませているという話は聞きましたか?」


「はい。昨日、母から聞きました」


「お父さんの悩みを解決するため、そして、脅されているかもしれない鍛治田部長を救うため、我々の力になってもらえませんか?」


上井は柵木重則の顔をまっすぐ見てお願いした。


「分かりました。協力します」


柵木重則はやっと納得した表情を浮かべて、上井に言った。


「ありがとうございます。ですが、この件はまだお父さんには黙っておいてください。この件がお父さんの悩みと違った場合、新たな悩みを増やすことになるので」


「分かりました」


「では、鍛治田部長とのアポイントメントの件、よろしくお願いします」


そう言って、上井は軽く頭を下げた。

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