他の誰でもない君の為に
仲仁へび(旧:離久)
第1話
それは一人の少年と機械人形の話。
ルイという名前のある彼が、機械人形と心を通わせる話。
ふと気が付いた時、ルイは異世界にいた。
ルイの年は十代後半、普通を絵にかいたような少年だ。
見た目に取り立てて奇抜な点はない。
一目見て印象に残るチャームポイントもなかった。
「ここは、どこだ?」
ルイは戸惑いの声を上げて周囲を観察した。
ルイが立つ場所は、見知らぬ町の中だった。
彼の記憶の中にはない場所。
そこに、通りかかった少女が声をかけた。
「何かお困りですか?」
ルイと同じくらいの歳の少女だ。
整った顔立ちの、間違いなく美人と言える少女。
「ええと、とりあえず。ここがどこなのか教えてくれると助かるかな」
その少女は魂のない人形だった。
そんな事を知らないルイは、人間の少女を相手にするように話しかける。
人形の少女はアールと名乗る。
アールは、困っていたルイに手助け。
そして、自らが経営を手伝っている宿屋へと彼を案内した。
それから数週間が経過した。
ルイは、アールに紹介された宿屋で世話になりながら働いていた。
それは住む場所を提供してもらった恩と、朝昼晩の三食を提供してもらっている恩を返す為だった。
人当たりの良いルイは、すぐにアールと仲良くなった。
「今度の定期点検は僕もついていくよ」
その頃になると、アールが人形だと言う事を、ルイはすでに知っていた。
しかし、ルイは出会った頃の様に、変わらず接し続ける。
つまり、人間にするようにアールに接し続けていた。
だが他の者達は違う。
アールが人間でないと知るや否や、態度を変えていた。
「どうして、貴方の態度は変わらないのですか?」
なのでアールは不思議に思い、その理由をルイへ尋ねた。
「それは、どうしてだろうね。僕にも分からないんだよ」
ルイは早口で答えた。その場を目撃していた他の人からは、それは何かを誤魔化すように見えたが、アールは言葉通りに受け取った。
「なるほど、不調なんですね」
「そういうわけじゃないんだけどなあ」
そしてアールは、ルイのその症状は原因不明の何かしらの不調なのだと判断した。
その後、ルイとアールは業務が終わった後に外出する。
外に出て、町を歩き、目的地へ向かった。
それは、定期点検をする為に。
人形の医者に、だった。
診察が終わった後に告げられたのは、部分劣化という症状だった。
それを聞いたルイは困った。
働いている宿の稼ぎは良くないので、新しい部品を買えなかったからだった。
「でも、このままだと君が壊れてしまう。そんな事になったら僕は悲しいよ」
「私が壊れたら、別の人形を買えばいいのでは?」
アールの言葉を聞いたルイは怒った。
医者の元から宿に帰るまでの間、帰り道ではルイは一言も言葉を発しなかった。
数日後。
ルイは宿を出て、住んでいた町を離れた。
それは、アールの部品を買う為の資金を、稼ぐ為だった。
深い森の中に入って行き、ルイは高価な薬草を探す。
時間をかけてあちこちを探し回り、半日ほど過ぎた頃、目当ての薬草を見つけた。
「これで、アールが壊れずにすむんだ」
喜び勇む様な足取りでルイは宿へと急ぐ。
しかし、道中で不注意の為に見落としていた崖で落下してしまった。
けれど、運が良かったのか、ルイは死ななかった。
クッションとなる茂みに落ちたからだ。
ルイが目を覚ましたのは、夜だった。
彼は驚いて周囲を見回したが、暗くて何も見えなかった。
「せめて薬草だけでも……」
そこに、アールの声が響く。
ルイを呼ぶ声が何度も森の中に響いた。
アールはルイを探しに来ていたのだった。
ルイを見つけたアールは、彼の様子をみて驚いた顔になった。
「どうしてこんな危険な事を。貴方に何かあったらと思うと、私は気が気ではありませんでした」
怒りを表明するアールにルイはにっこりと笑いかけた。
「じゃあ僕も同じだよ。アールに何かあったらと思うと気が気じゃない」
「貴方に代わりはいないんですから」
「君にも代わりなんていないよ。さあ、一緒に帰ろう」
アールは、個体の違いについて学んだ。
同じ姿形、同じ能力を持っていても、アールは他の者達とは違うのだと、その時、学んだのだった。
その後は、二人で支え合って町まで帰った。
宿で二人は、一緒に主人に怒られる事になった。
それからもルイとアールは二人で宿で働き続けた。
新しい部品を取り換え、休むことなく働き続けたアールは、町で一番の働き者になった。
ルイとアールはずっと仲良く二人で一緒に過ごした。
他の誰でもない君の為に 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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