第22話「お弁当作ろっか?」
それから一週間が過ぎ、御坂の風邪もすっかり回復した。今ではいつも通りご飯を作ってくれたり、授業中にちょっかいを出されたりと強気な行動をしてくるのだがあれからというもののふとした時にあの弱弱しい姿が脳裏に
「ねぇ、聞いてるの?」
「っ! あ、あぁ、なんだ?」
「何、ぼーっとして。すっごい間抜け面してたよ?」
「ま、間抜け……そんなにかっ」
「最近は特にねっ、良くぼーっとしてるし少し心配なんだけど?」
真面目に言っている御坂だが、きっとそれが自分のせいだとは思ってもいないだろう。看病していたとき、どんな顔をしていたのか写メで見せたいくらいだ。頬は赤く、唇もぷくっと水を含んでいて、涙目で吐息が激しい。そんな感じで誘惑してくるのだから忘れられるわけもない。
「大丈夫だって、少し考え事してただけだ」
「へぇ……すっごい長い間考えてるのね?」
額に汗を浮かべながらも冷静に答えたのだが、そんな藤崎にジト目を向けてくる御坂。さすが、女性だけあって勘が鋭い。
「何、考えてたのか教えてくれないの?」
不意に近づいて、胸を藤崎の右腕にぴったりつける彼女。顔がすぐそこにまで迫っていて、吐息も首元に当たっている。ドキリと胸が跳ねて、鼓動が早くなるのを感じたがなんとか自制心で我を保つ。
「——き、綺麗だなって」
危うく唇を近づきそうになったため、視界に映った銀色に輝く長髪を見ながら藤崎は口を開いた。
「か、髪が……綺麗だなって……すっごく」
「かっ、髪?」
「……そうだけど、悪いか?」
「へ……へぇ……あ、ありがとぉ……」
視線を逸らして、頬を赤くする御坂。
しかし、藤崎からは死角になっていて彼女の表情は見えていなかった。
「あぁ、どういたしましてっ」
「……ふ、ふんっ。べ、別に——嬉しかったわけじゃないからねっ!」
「普通に喜べよ、というかいつからツンデレにジョブチェンジしたんだ」
「つ、ツンデレじゃないし!」
「そうか? 完璧にツンデレムーブだぞ? それとも、また風邪か?」
「ち、違うし……」
さらにそっぽを向いて顔を隠す御坂を藤崎は追い詰める。肩をトントンと叩き、動じない彼女に彼はゆっくりとこう言った。
「まぁ……とにかくいろいろありがとよ。感謝してるから、すっごく」
「う、うん……知ってるし」
「あぁ、そうかい。それじゃ、俺は昼から大学行く用事あるから準備してくるわ」
「え、大学行くのっ?」
「まあ、ちょいと前に行きたかった研究室をな」
そう、実は鏡花ととの決着をつける日は他にも用事があった。本当は工学部にある鈴木研究室に見学に行くことにもなっていたのだが、あの一連の流れもあり、後日連絡で行けなかったことを謝ったのだ。ただ、鈴木教授も学生の云々かんぬんには優しいらしく、「今度来てくれればいい」と一言。
逆に、今日こそは行かないといけないので早めに出ようと考えていたのだ。
「——そ、そっか」
「あぁ、すまんが昼までにはいかなくちゃいけないから、昼も食っていけないわ」
「……うん、わかった。夕方に帰ってくる感じ?」
数秒間、間が空いて彼女はコクっと頷いた。
「——あ、でもっ」
「ん、どうした?」
振り向いて自室に向かった藤崎を呼び止める御坂。一息ついてから、彼女は顔を上げて言い放つ。
「せ、せっかくだし、弁当作るよ!」
「べんとう?」
「うん、弁当っ。だって隼人、昼食べないつもりなんでしょ? それは少し心配だから、私作る!」
「あ、いや、まぁ。無理はしなくていいけど……」
「無理じゃないし、それにこの前の貸しは返したいしねっ」
別に貸し借りで看病したわけではなかったが、言っても止めなさそうな顔をしているため藤崎はそれ以上何も言わなかった。
そして、一時間後。
玄関で靴を履く藤崎のリュックにお弁当を入れる御坂はニコリと笑って手を振った。
「それじゃ、はいっ。いってらっしゃい」
「ああ、ありがと。行ってきますっ」
玄関を開けると夏を感じさせる生ぬるい風が入り込み、御坂の美しい銀色の長髪が後ろへ靡き、ガチャリと扉が閉まった。静謐となった家の中で独りでに溜息をついた彼女はぺしんっと頬を叩いて。
「————っ。よし、私も勉強しないと!」
<あとがき>
いつも読んでくれてありがとうございます。良かったら、フォロー、コメント、☆評価などなどお願いします! また、よければ三作目の幼馴染作品である「俺にだけ冷たい幼馴染は俺の事が好きらしい~~十年前に結婚を約束した素直になれない幼馴染と一緒に住むことになったんだけど、両親が旅行に行ったせいで実質同棲になった~~https://kakuyomu.jp/works/16816452220584720494」もフォローお願いします!
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