第18話「お花見ってこんな感じ?」
追いかけてきて捕まえたのだが——正直、そんなことがどうでもよくなるほどの燦燦たる桜色の景色に絶句してしまっていた。
「……っ」
「うわぁ——」
お互い、見惚れてしまうその景色。言葉は出ない、圧巻だ。圧巻すぎて瞬きすらも出来なかった。
一面の桜色。そのすべてに視線が散漫として首根っこ掴まれている御坂も口を頬けている。別に好きでもない桜にここまで魅了されたのは少しだけ悔しいが見惚れてしまったのは事実だから仕方がない。
「これはもう……すごいなぁ」
「ええ、さいっきょうね」
「なんだそれ……」
「最強よ、知らない?」
「知ってるよ」
ジト目を向ける彼女。
銀髪ロングに桜色が反射して少しだけ眩しかった。
――桜、日本の誇りたる花。毎年、春になると地元の北海道神宮には大勢の見物客が押しよせていた気がするが、ここの桜もこれまた絶景だった。一面雪景色ならぬ、一面桜景色。
戦時中は命の短い花でもあったため嫌われていたらしいが、今の日本で好かれている理由の一つに平和であるということも含まれているだろうか。
まあ、そんなことはどうでもいいか。
「すごいんだな、ここの桜も」
依然と口を頬けている御坂に、パチパチと瞬きを挟んで問いかける。
「ええ……」
「——まあ俺、北海道神宮の桜すら見たことないんだけどな」
「ははっ……なんかおかしいと思ったら、そうだわね」
「ほんと、高校にある桜くらいしか知らないかも」
「高校の……でも、教室から眺めるの案外よかった気がするけど……?」
「うーん、これに比べたらちょっとな……」
「それを比べるのは少し違うわよ?」
「ははっ、そうかもしれん」
微笑みながら返してくれる御坂に、胸が跳ねる。
冗談混じりに頬も淡く
「いと、うつくし」
ポツリ呟くと、御坂が振り向く。
「うつくし? っふふ……なにそれ?」
「ほら、言うだろ? 古文でさ?」
「古文……あぁ、あれね。昔は美しいって言うのも可愛いって意味だったらしいしっ……て……にしても、桜って可愛いかな?」
「可愛いと思うぞ?」
「そう……かな?」
首を傾げているが、物事の真相を分かっていないようだ。確かに、桜も綺麗だし可愛いのはその通り。しかし、そう思って言ったのではない。
いとうつくし——なのは何も御坂葵のことなのだ。
「っ?」
「ははっ、ほんとにそうだな」
全くもって気づいていないその表情がこれまた、可愛い。ほんと、この可愛さに気づいていなかった自分はどこに目を付けていたのか……それが分からないな。
キラリと輝く銀色の髪に桜色が反射して、辺りをその色に染め上げていく。綺麗な夜景も、頂上からの絶景も——そのすべてを塗り替えられるような
「それで、私たちはどうするよ? 座る? 出店いく? 弁当はないでしょ?」
「あぁ、確かに……こんだけ人がいるとどうするか迷うなぁ」
「迷うっていうか、ほら、あれ」
すると、御坂は桜並木の下でシートを敷いて談笑を楽しむ家族を指さす。
「何、あの仲睦まじい家族がどうかしたのか?」
「言い方……それに、別にあの家族がどうかしたわけじゃないし。ただ、単に私たちもあんな感じでシート買って座るのって聞きたかっただけっ」
「あ、あぁ……そういうことか」
「他にどういうことがあるの?」
ジト目で睨まれる藤崎。
御坂があの家族の様になりたいと言っているのかと——思ったなど、口が裂けても言えなかった。
「ま、まぁ……いろいろと」
「へぇ、色々ねっ……面白いっ」
「そうかいそうかい……俺は面白いですよ~~」
くシャリと笑う御坂。
いつものことがこいつはよく馬鹿にする。悔しいとか、許せないとかいろいろ言うくせに二人だけの時はこうやって馬鹿にしてくるんだ。
「っぷぷ……何不貞腐れてるのっ、可愛いなぁもうっ」
「っう、うるさいわ……」
「えへへっ、まぁ、そういうところが好きなんだけどねっ」
「っく……」
頬を赤らめた藤崎はバレないように顔を背ける。自らの顔を見られたくない——なんて彼女と長い時間過ごして抱かなかった感情だが、ただ今だけは恥ずかしかった。
「ほら、いこっ」
「————あぁ」
差し伸べられた真っ白で小さな手、小学校の時も中学校の時も結んだことのあるその手にゆっくりと触れる。すると、すぐにガシリと掴まれる。ただ、当の御坂は何も気にしていない顔で藤崎を引っ張った。
<あとがき>
お久しぶりで遅くなってしまい申し訳ございません。
なんとなく、100話以上行くのかなって思っていたのですが案外すぐに終わりそうで書くのをためらっていました……ほんと、すみません。最近は巨乳ロリの方を読んでくれる方も多く嬉しい限りです。良かったらこちらにも☆評価、フォローなどなどお願いします!
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