第2話「波乱の朝」

「……ん、ぁ…………」


 藤崎は目を覚ました。


 特にアラームの音も聞こえないし、誰かに起こされたわけでもない。

 

 誰にでも経験がある「いつの間にか目が覚めた」みたいなやつだ。とは言え、いつもならこんな目の覚め方はしない。


 なぜなら、高校生までは隣の家に住む幼馴染、御坂みさかあおいが微笑みながらヒップドロップをかましてくれるからだ。


 無論、藤崎の肺は潰れる。毎朝、土日祝日も訪れる悪夢のような目覚めに彼も嫌気が差していたが楽しそうに笑う姿を見てしまえば何も言うことはできなかったし、朝が弱い藤崎をわざわざ起こしてくれる御坂を攻める事なんてできない。


 しかし、灰の圧迫も感じることなく起きれた今日は——普段と少しだけ同じで、普段と少しだけ違っているような気がした。


「————あ、おはよぉ」


 聞き慣れた美しい声、ゆっくりと開けていく視界に映ったのは銀色の髪。そう、毎朝起こしに来てくれる幼馴染みさかだった。


「み、さか……?」


「ほら、起きるんだよぉ~~、今日はあれでしょ? 同棲し始めたから買い出し行くんでしょぉ?」


「ど、う、せい……? 御坂って男になったぁ、のかぁ?」


「……そっちの同性じゃないわよ、同棲! 一緒に住むほうだよっ!」


「ああ……そっちか……」


「そうそう、同じ大学に合格できたことだしさ、するって話したでしょ?」


 頬を膨らませながら、藤崎の頬を両手で引っ張る彼女。


 ただでさえ可愛くて綺麗なのに、日本人離れした容姿を付け加えたらその破壊力は核をも越える。


 ただ、そんな御坂の可愛い顔を腐るほど見てきた藤崎としては少し違うことが気になっていた。


「そうか、同棲か……同棲、同棲……ん、今、なんて?」


「なんてって——同棲だけど?」


「同性って同じ姓って書いたほうじゃないよな?」


「……あ、当たり前でしょ?」


 別に、寝起きでボケているわけではない。

 ただ、本気で疑問に思ったから言った、それだけだ。


「だ、だよな……ってことは同性じゃなくて同棲ってわけで……そうだよな、一緒に住むほうの同棲、だよなぁ……」


 藤崎は布団に下半身を包みながら、横で正座している御坂の顔を覗く。


 だが、そこに答えはなく、誕生日祝いであげたクマさんの刺繍入りエプロンを掛けているだけの御坂しかいない。このクマさんに何かヒントが⁉ と思ったがまあ、そんなわけない。


 と、数秒間思考した挙句出た言葉がこれだった。


「————まじで?」


 とんだ拍子抜け。

 目を見開きながら本気で驚く藤崎に溜息すら漏れる。


「まじ」


「本気で?」


「本気だけど?」


 絶句。

 唖然とした。

 

「え、まさか覚えてないの?」


 女の勘、それが働いたのか藤崎は内心ギクッとした。

 さすがは御坂葵。天然混じりで普段は優しい女の子なのだが、こういう時に発する洞察力は半端ない。高校時代に「甘党派の猟犬」という変な異名がついていただけある。


「……え?」


「……はぁ、だから、え? じゃなくて、覚えてないのって?」


「……すまん、記憶が欠如している」


「誤魔化さないで」


 ギロッと碧眼を細めて睨みつける彼女、そんな視線に怯えて悪寒が走った。


「覚えてないです……」


 藤崎が俯きながら正直に答えると、御坂は一息置いて体勢を崩す。正座はあぐらに変わり、身体を後ろに傾けて新鮮味溢れた天井を見上げる。


「はぁ……そっかぁ、そうなのかぁ~~ひどいなぁ、隼人は覚えてないのかぁ!」


 明らかに挑発していたが、実際に覚えていない藤崎としては普通に謝ることしかできなかった。


「え、いや別にそういうわけじゃっ——」


「じゃあ、どういうわけなのぉ?」


「んぐっ——」


「ほぅら、何も言えないじゃん……」


「……すまん」


「……ふふっ」


「え?」


「んくっ……ふふっ……あはははっ、ははっはははっ‼‼」


 すると、御坂は途端に笑い出す。


「な、なんだよ、急に……」


「はははっ……いやぁ、だってさ、すっごく申し訳なさそうな顔するからさぁ、もうおかしくってさ!」


「当たり前だろ、めっちゃ怒った顔するし」


「いやぁもう、面白いし! 隼人ほんとに分かりやすいなぁ……」


「やめろ、揶揄うんじゃねえ」


「えへへっ……ごめんごめんっ。あぁ~~あさから笑った、マジで楽しいっ」


「そうかい……そうでしたか、お嬢様~~」


「うわぁ、私お嬢様にはなりたくないし、きっもぉ」


「くっそ、御坂‼‼ まじでぶっこr——」


「あはははっ、にげろぉ~~~‼‼」


 早朝、時計は「7:06」の文字を映していたが二人の住む108号室は騒がしかった。




<あとがき>


 もう気付いていらっしゃる方もいるかと思いますが、こちらでも改訂し始めています。そのためリメイク版と同じように一話から修正しています。一応、下書きにしているので昔のバージョンも読みたい! という声が上がればまた特別編として出しますので何かあればコメントにてお書きください。


 ということで、歩直の右往左往はこれにて終わらせたいと思います。ごっそりフォロワーさんが減ってしまいましたがこの作品で天下目指したいと思います‼‼


 是非、今一度フォローや星評価お願いします‼‼

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