「秘策?」

　セイラは首を傾げる。

『えぇ、あの邪竜、名前をファーヴニルっていうんだけどね。奴は人の心を操るのが得意なのよ』

「それで?」

『前回、奴と戦った時にね、あと一歩って所まで追い詰めたのよ。でも最後の最後で奴に操られた味方に裏切られてね...』

「そ、それはその...なんていうか...」

　うわぁそれはキツイなぁ...信じてた味方に裏切られるなんて考えたくないよねぇ...けど、邪竜をあと一歩まで追い詰めたアンジュってやっぱり凄かったんじゃね?　セイラはどこか他人事みたいに評していた。

『済んだ事よ。もう気にしてないわ。それでね、ここからが本題なんだけど、その裏切った彼も最後の最後で正気を取り戻したのよ。そして私を庇ってくれて...その彼も結局は奴に取り込まれてしまったんだけど、彼が稼いでくれた僅かな時間があった。その隙に私は最後の力を振り絞って何とか封印に成功したって訳』

「あの、その彼っていうのは...」

『...えぇ、夢で見せた人よ。私の守護騎士で...恋人だったわ...』

「......」　

　セイラは言葉もなかった。自分の愛する人に裏切られるなんて、どれだけ辛い気持ちなんだろう...最後の最後で意識を取り戻したとはいえ、想像を絶する絶望を味わったはずだ...

『そんなに気にしないで。もう千年も前の話よ?』

「で、でも...」

『いいから聞いて。大事なのはね、彼の意識がまだ奴の中に残ってるって事。これが切り札になるわ』

「切り札?」

『えぇ、そうよ。作戦としてはね、まずあなたの仲間達が操られたりしないよう、離れて戦う事。空中戦を仕掛けるの。そして最高のタイミングで彼に奴の動きを封じて貰うわ。そこをあなたが止めを刺すの』

「う、上手く行くかなぁ...」

『きっと上手く行くわ。自信を持ちなさい』

　本当かなぁ...空中戦なんてやった事無いし不安だらけなんだけど...セイラは頭を抱えたくなった。

『セイラ、そろそろ到着するわ。用意はいい?』

　うぅぅ...もうやるしかないのか...セイラは腹を括った。

「ま、まあなんとか...」

『マズい、もう顕現してるわっ!』

　えぇぇっ!?　なにあれ!?　なにあれ!?　デカ過ぎでしょ!?　クロウの倍以上あるじゃ～ん!　あんなのと戦うなんて無理無理無理～!　怖い怖い怖い～!　セイラは今すぐ逃げ出したいと思った。

『いけないっ!　ブレスを撃とうとしてるわっ!　セイラ、弓を構えてっ!　早くっ!　あなたの仲間を助けるんでしょっ!』

　!!!　その瞬間、腹が決まった!　そうだ、無理でもやるんだ!　怖くても戦うんだ!　仲間を助けるためにっ!

「リシャール～!!!」

　セイラは渾身の力を込めて矢を放った。

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