第23話 正体は

「あぁ、居たぁ! セイラ様ぁ! こんな所に居たんですね~! 探しまたよぉ~! って、どうしたんですか?」 


「チチか。なぁ、これ何に見える?」


 そう言ってセイラは謎の黒い生物を指差す。


「タチアナですぅ~! な、なんですかこれ~? 可愛い~♪」


「クゥッ!」


 するとその生物が可愛らしい鳴き声を上げる。


「可愛いか!? どこが!? 翼の生えたトカゲみたいだぞ!?」


 セイラが呆れたように呟く。


「可愛いじゃないですか~♪ あら? あなた、怪我をしてるの?」


 タチアナがそう尋ねると、赤い瞳が僅かに潤んで見えた。


「治してあげるわ」


 そう言って回復魔法を掛けようとするタチアナを、セイラが慌てて止める。


「待て待て、チチ! 魔獣かも知れねぇ! 迂闊なことすんな!」


「大丈夫ですよぉ~♪ この子悪い子には見えませんもん。それとタチアナですぅ~」 


 そう言ってタチアナは、セイラが止めるのも聞かず、


『ヒール』


 回復魔法を掛けてしまった。タチアナがお飾りとはいえ聖女に選ばれたのは、この回復魔法の腕を見込まれたからである。


 すると先程までタチアナを見上げていた赤い瞳は閉じられ、眠ったのかその小さな体は安らかに寝息を立て始めた。



◇◇◇



 リシャールが神殿に着くと、タチアナの側付きであるシスターが憔悴し切った顔で出迎えた。


「えっ!? タチアナが行方不明!?」


「も、申し訳ございません。私がほんのちょっと目を離した隙に...セイラ様もいらっしゃらないので、恐らくご一緒してるのではないかと...」


「セイラ!? あいつが来てるんですか!?」


「は、はい。今朝早くにおいでになられました...」


「全くもう...あいつは...」


 もちろん、セイラの側に付けている護衛からそんな連絡は受けてない。また撒いたんだろう。リシャールがため息を吐いていると、


「あ、リシャール様ぁ~!」


 タチアナがやって来た。後ろにはセイラも居る。バツの悪そうな顔をしている。さすがに悪いことをしたって自覚があったのかと思ったら、


「私は止めたんだからな...」


 どうやら違ったようだ。タチアナの方を見ている。良く見るとタチアナが何かを抱えている。


「タチアナ!? それは...魔獣か!?」


 タチアナの腕の中で黒い生物が静かに寝息を立てていた。


 

◇◇◇



「さて、どういうことか説明してもらえるかな?」


「え~とですね...」


 タチアナは事の経緯を掻い摘んで説明した。


「ふ~ん、こいつが菜園にねぇ。どこからもぐり込んで来たんだ!?」


 リシャールはタチアナが抱いている生物を繁々と観察する。


「なぁ、この姿形ってもしかしたら竜の幼体じゃないのか!?)


 この世界での竜は、どこぞのドラゴンなクエストっぽい竜ではなく、神話に登場するような神に近しい存在のことを示す。決して討伐対象になるような魔獣の一種を指すものではない。神獣と呼ばれ尊ぶべき存在である。


「こいつがかぁ!? どう見てもトカゲにしか見えねぇぞ!?」


「ってか、セイラ。お前さんはどうしてここに居るんだ!?」 


 リシャールがジト目をセイラに向ける。


「ま、まぁ、そのなんだ...細けぇこたぁどうでもいいじゃねぇか、ローリ」


「あぁっ!?」


「...リシャール王子」


 リシャールの剣幕に負けたセイラは、誤魔化すようにタチアナの抱いている生物に手を伸ばす。

  

 ガブッ!


「いってぇぇぇっ!!!」


 手に噛み付かれたセイラの絶叫が響き渡った。



 

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