第20話 第1章エピローグ
リシャールがセイラを探しに行こうと神殿を出た時、王都中が『聖女の奇跡』で大騒ぎになっていた。
「なんの騒ぎだ!?」
訝しむリシャールの目の前に、騒ぎを起こした張本人が見知らぬ子供を連れてノコノコ現れた。
「セイラぁ! お前ぇ! どこ行ってたんだよぉ! みんなして散々探したんだぞぉ!」
今にも抱き付かんばかりに詰め寄るリシャールの勢いに、さしものセイラもちょっと怯んだ。
「な、なんだよ、ローリー。会議が長引きそうだったから、ちょっと息抜きしてただけだろ? そんな目くじら立てんなよ」
「だからローリーって呼ぶなぁ! それになんだその子は!?」
リシャールがルイの存在に気付いて問い質す。継ぎ接ぎだらけの粗末な服を着てるところを見ると、浮浪児か孤児だろうか。
「こいつは私の友達だ。中に入れるぞ。話があるんだ」
「おまっ! なにを勝手な!」
リシャールの存在を無視するかのように、セイラはルイを連れて神殿の中に入ってしまう。リシャールは仕方なく後を追う。話があるのは自分達も同じだしまぁいいかと思いながら。
控え室に戻ったセイラは「好きなだけ食っていいぞ」と用意されていたお菓子をルイに上げた後、リシャールに向き直った。
「それで? 私を探してたってことは何らかの結論が出たってことだな?」
「いや、それはまだだ。お前を探していたのはだな...」
リシャールはエリクサーの件をセイラに説明した。黙って聞いていたセイラは、
「なあ、それって売るとしたら幾らになる?」
「へっ!? 売るだって!?」
「だってそれ私のもんだろ?」
「まぁそうだが...」
「高い値が付くんだよな?」
「そりゃもう。凄い値段になるだろうな」
「ローリー、条件に一つ追加だ」
「だからローリーって呼ぶな! 条件って?」
「私がお飾り聖女に協力する条件に、エリクサーを王家が買い取るってのを付け加える。それも凄い値段でな」
「なんでまたそんな条件を?」
「それはな...」
セイラは夢中でお菓子を食べているルイを見ながら、ルイの置かれた境遇を説明する。
「要はエリクサーを売った金で、ルイみたいな浮浪児を保護したいと思ってる。それと余った金は、私が生まれ育った孤児院含め、国中の孤児院に対する補助金に充てたい。それを呑んでくれるなら、今後もエリクサーを作ってやってもいい。近隣諸国とのゴタゴタを治めるための政治取引に使えるんじゃないか?」
リシャールはしばらく考え込んだ後、
「前向きに善処しよう...」
「国会答弁か!」
セイラの突っ込みが炸裂した。
◇◇◇
その後、国はセイラの条件を全て呑んだ。聖女のご機嫌を損ねる訳にはいかなかったというのと、エリクサーのもたらす利益に目が眩んだからというのが主な理由だ。
お飾りとして聖女に選ばれたのは、セイラと同じ孤児院出身のタチアナという、今年で18歳になる金髪碧眼の見目麗しい女性である。今日はこれから新しい聖女としてのお披露目式に臨む。
ガチガチに緊張しているタチアナにセイラは、
「チチ、そんなに緊張すんな。客はみんなカボチャだと思え」
「タチアナです~ 無理です~ セイラ様~ 代わって下さい~...」
「んなこと出来るか! ほら、肩揉んでやるからリラックスしろ」
「そ、そこは肩じゃなくてチチです~! あん♪」
「...なにやってんだ」
「よぉ、ローリー...じゃなかった王子様。なあに、けしからんチチにちょっとお仕置きをな」
「止めとけ」
「なんだよ、婚約者を先に味見されたのが気に食わないってか?」
そう。お飾りとはいえ、聖女になったタチアナとリシャールは婚約者同士になっていた。年齢的にも今年で25歳になるリシャールとお似合いの二人だと言われている。その容姿的にも。リシャールの胸中には複雑な気持ちもあるが、これはセイラ自身が望んだこともあるので、割り切るしかなかったのだ。
「味見ってお前な...それより本当に出て行くのか?」
「あぁ、王都もいいが、私が居たんじゃタチアナも肩身が狭いままだろ? 私は居ない方がいいんだよ。それにロッサムのガキどもが心配だしな。エリクサー資金のお陰で大分潤ったから生活は楽になっただろうが、まだまだ甘えん坊な連中だから側に居てやらねぇと」
「そうか...寂しくなるな...」
「いつでも会えんだろ? ロッサムまで大した距離じゃねぇんだし」
「そうなんだが...」
「そんなことより、タチアナを支えてやれよ? これから大変だろうが、婚約者なんだからしっかりサポートしてやれ」
「分かってるよ」
「頑張れよ、ローリー」
「だからローリーって呼ぶなぁ!」
リシャールの叫びが響き渡った。
~ 第1章完 ~
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