第16話 究極の選択
「では、セイラ様。新たな聖女としてのご挨拶をお願い致します」
そう言ってゴドウィンは、セイラを残して壇上から下りた。一人残ったセイラは、全ての観衆を見渡しながらこう告げた。
「まず最初に言っておきたい。これ以降、新しい聖女が誕生することはもう無い。私が最後の聖女だ」
観衆の間にどよめきが広がる。リシャールも例外ではない。更にセイラは続ける。
「これは女神の意思だ。さっき女神像に祈りを捧げた時、私の中に入り込んで来たから間違いない」
それはリシャールも体験した。やはりあれは女神だったのか。
「女神はこの国に見切りを付けたんだよ。神託が降りることはもう無い」
どよめきが更に大きくなる。堪らずゴドウィンが尋ねる。
「そ、それはどういう意味なんでしょうか...女神様は我々をお見捨てになられたということでしょうか...」
「そりゃ見捨てられて当然だろ? この国は500年間なにやってた? 聖女一人におんぶに抱っこで頼り切っていたんじゃねぇのか? 魔の者に対する備えも飢饉に対する備えも、なに一つやって来なかったんだろ? 全部聖女に任せっきりで、なんとかしようっていう努力すらしてなかったろ? そのクセ隣国とは小競り合いを繰り返して国庫を圧迫し、財政が厳しいっていうのに中央では権力争い、利権争いに夢中になって政治を疎かにしている。そのしわ寄せは全部弱い立場の国民に回って来る。知ってるか? 私の住んでる孤児院に対する補助金、毎年減らされてるんだぜ? とてもじゃないが暮らしていける額じゃない。だから私は10歳から働いてる。そうしないと食っていけないからだ。そんなことが国中で起こってる。それに対してアンタら何をしてくれた? 高価な衣装着て、美味い物食って、見て見ぬフリしてただけじゃねぇのか? そんな国、女神が見切りを付けて当然だろ? なにか反論があるなら言ってみろ」
部屋中がシーンと静まり返ってしまった。誰も反論できない。重苦しい雰囲気に包まれる。再びセイラが口を開く。
「さて、私から提案したいことは次の2つだ。1つ目、私が最後の聖女であることを国民に発表する。私が死んだらその時点で女神の恩恵が消えて無くなるから、それまでに努力を重ねて、自分達の足て立って歩けるようにしておく。具体的には、結界が消えても魔の者に対抗できるだけの力をつける、飢饉に強い作物を開発して、いざという時に備えておく、とかになるだろうな」
「それは...」
ゴドウィンが言葉に詰まる。無理もないだろう。そんなことを発表しようもんなら、国民はパニックになる。暴動に発展するかも知れない。教会の権威は地に堕ちるだろう。
「2つ目は、何食わぬ顔で、見なかった、聞かなかったことにして、国民を騙し続けることだ。やっと聖女が見付かった。これからも聖女と教会は安泰で、めでたしめでたしってな。もっとも、そんなことをするくらいなら、私は聖女の座から降りるけどな。あとは勝手にやってくれ。聖女候補の中から適当に選んで、お飾り聖女にするとかな。さあ、どっちを選ぶ?」
答えられる者は誰も居なかった。
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