第14話 晩餐の後で

 ベルハザード家から王宮に戻ったリシャールは、今回の逮捕劇に関する諸々の手続きなどを各方面に指示しつつ、食堂に向かった。扉を開いて、


「遅くなって済まない...セイラっ!?」


 リシャールはそこで固まった。


 長く艶やかな黒髪をハーフアップに纏め、レースやフリルなど飾り気の無いシンプルな白いドレスに身を包み、化粧を施された目元は大きな瞳がアイラインで更に強調され、頬は頬紅でほんのりとピンクに色づき、紅を点した赤い唇は仄かな色香を放ち・・・


 メイド軍団渾身の力作であるセイラが、恥ずかしそうにそこに佇んでいた。


「やっぱ変だよな...」


 あまりの美しさに息を呑み言葉も出ないリシャールに、やっぱり似合ってないのかと不安になったセイラが自信無さげに問い掛ける。


「天使だ...」


「えっ?」


 心の声がだだ漏れになっていたリシャールが慌てて、


「いやあの、とても似合ってるよ。その...とてもキレイだ」


「そ、そうか...」


 セイラがホッとしたように笑顔を浮かべる。


「さ、さぁ、食事にしよう。腹減ったろ?」


「あ、あぁ、そうだな...」


 リシャールは食事中、終始セイラから目が離すことが出来ず、夕食に何を食べたか思い出せない。一方のセイラもまた、慣れない服装に加え食べたこともない豪華な食事に、終始戸惑いを隠せなかった。



◇◇◇



 食後、やっと目が慣れたリシャールは、セイラをサロンに誘った。2人で食後の紅茶を楽しみ、今日あったことを話していると、レイモンドが来客を告げに来た。


「神官様が?」


「はい」


「こんな時間になんだろ?」


「お通ししても?」


「そうだな...」


 リシャールが即答を避けたのを察したセイラが、


「私は席を外そうか?」


 と言ったがレイモンドは頭を振って、


「いえそれが、セイラ嬢にも同席して欲しいと」


「私もか!?」


「えぇ、是非にと」


「ふぅん、なんだか良くわからんが、まぁ良いだろ。お通ししろ」


 しばらくすると、レイモンドが一人の神官を連れて来た。


「夜分に申し訳ありません。私、大神官様の側付をしております、カリムと申します」


 カリムと名乗った神官は、年の頃は40代くらいの優しそうな人だった。


「それでご用件は?」


「はい、実は...大神官様の容態が思わしくなく、治癒担当の魔道士からは今夜が峠だと言われております...」


「そんなにお悪いのですか...」


「えぇ、それで...失礼ながら藁にも縋る思いと言いますか...昼間、打診頂いたセイラ様に施術して頂けないかと、図々しくもこうやって伺いました次第にございます...」


「そういうことなら分かりました。すぐに伺います。セイラ、申し訳ないけど頼めるかな?」


「あぁ、分かった」


「あ、ありがとうございます...」


 カリム神官は深々と頭を下げた。

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