第6話 ―霧消の星彩〈Ⅰ〉―
◆
とある街のショッピングモール。
いつもなら賑わっているはずだが、今は何も聞こえなかった。
耳を澄ませば、辛く、苦しい声が聞こえる。
ショッピングモールの中は勿論、ショッピングモールの周りにいる人々は皆、倒れていた。
◆
「お、おい。どういうことだ、なぜ我々だけ無事なんだ⁉」
八雲は焦った。有能ではあるが突然のことにはすぐに対応できないらしい。まあ完璧な人間なんていない……はずだ。
だがこれは予想外だった。二人とも張り詰めた表情をしている。おそらく自分もそうなっているのだろう。
――これはどういうことだ。俺達に何もないというならばこれは魔法関係であるということは間違いない。
漆葉は目を閉じ、魔力の濃い場所を探す。
「花厳、あのモールを中心に治癒結界を張ってくれ。できるならエーテルの回復ができるやつもだ。」
花厳は頷く。
「わかったよ。やってみる」
と言い、結界を張り始めた。
「八雲は周りを監視魔法で偵察しといてくれ。俺は――ちょっと試したいことがある」
可視化エーテルで漆葉は狙撃銃を作る。それは黒を基調とし、羽根のような飾りのついた銃身が三つあるものだった。彼は銃を持ってはいなかった。銃は宙に浮いていたからだ。そして銃口をショッピングモールの屋上に向け、言った。
「――穿て、『
三つの銃口から放たれた弾丸は甲高い音を鳴らし、螺旋を描きながら飛んで行く。
それはまるで
◆
……なんて美しく、魔力が濃いんだ――
八雲はそう思いながらも恐ろしく思った。ふと見れば花厳もあの弾丸を見ていた。
第六天魔と第七天魔との差はこれほどまでにあるのか、と八雲は愕然とする。
弾が放たれてから少しの間があった。
するとショッピングモールの屋上に、何かを守るように魔法陣が展開された。
ギャイイィン
とその魔法陣に弾丸が当たり、そこから黎い光が放射状に現れる。
砕いた、と思えば同じ場所から一直線に数十枚の魔法陣が表れ、弾丸を防ぐ。
しかし弾丸は魔法陣を砕いて進んでいく。
だが最後の一枚で勢いは止まり、弾は消滅した。
「うーん、『八咫烏』じゃ足りなかったか。第五層でも最上位のやつを使ったんだがなぁ……。次は『聖天八咫烏』か『夜闇乃八咫烏』でも使ってみるかな」
漆葉はがっかりした表情で狙撃銃を消した。
「――今のが第五層……なのか?それと足りなかったってなんだ?それなら今上位のやつをやればいいじゃないか」
「言っただろ、最上位のだって。結構『八咫烏』系のやつってエーテル食うんだよ。俺でも連発はできん」
……できないこともあるのか。
八雲は、漆葉は何でもできると勝手に思い込んでいたためそのことがとても意外に思えた。
花厳が魔法陣の展開をやめた。どうやら治癒とエーテルの供給は終わったらしい。
いつの間にか倒れている人々の表情からは苦しみの色が消えていた。
◆
ショッピングモール屋上。
そこには大きな丸い繭があった。
繭はまわりの柱や壁などに糸で固定されており、術式が書かれてある。
その術式はまるで鼓動を打つかのようにドクン、ドクンと脈打っていた。
繭の中からは、小さい吐息が聞こえた。
◆
その日のニュースでは、とある事件のことが取り上げられた。
新央都にあるショッピングモールで起きた事件のことだ。
そのショッピングモールを中心に半径一キロメートルの範囲以内にいる人たちが意識不明で倒れていたという。最初はガス漏れによる事故なのではないかという意見があったが、外に出ている人も被害にあっているためその説は否定。
原因は未だにわかっていないという。数時間後に全員病院に搬送され、意識を取り戻した。死者ともに怪我人はゼロ。
しかしこの事件、奇妙なことに倒れた人全員が同じ夢を見たという。
それは、大きな‘‘蛾”の夢だった。
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