ゴール

瀬川

ゴール




 私は必死に、ゴールに向かって走っていた。

 すでにそれは視界に入っている。

 光り輝いていて、そこまで行けばきっと助かる。そんな気がした。


 後ろからの気配は、ずっと前から無くなった。

 もしかしたら諦めたのかもしれないし、様子を窺っているだけかもしれない。

 それでもあの光の元まで行けば、私の勝ちだ。

 息が切れるのも無視して、私は走り続ける。


 どうして、こんなことになってしまったのだろうと後悔しながら。





 友達のミサは、そういったオカルト的な話が大好きだった。

 妖怪や宇宙人も本当にいると信じているし、そういった噂話を仕入れては、私に披露するのを趣味としていた。

 私はその話を呆れながらも聞いて、たまに矛盾を指摘したり、意見が合わなくて衝突したりすることもあった。


 そんなある日、私の家に来たミサは興奮気味に一枚の写真を見せてきた。

 写真には古い洋館が写っていて、不気味な雰囲気を醸し出していた。

 私はその写真を受け取ると、首を傾げる。


「これが、どうしたの?」


「よく見てみてよ! 窓のところに人影が写っているでしょう?」


「んー?」


 言われてみれば、確かに写っているかもしれない。

 でもぼんやりとした黒い影は、はっきりと人影だとは言えなかった。

 そうは思ったけど興奮しているミサの手前、水を差してしまうようで指摘出来なかった。


「ここ、近所でも有名な呪われた屋敷らしくてね。入ったら、二度と戻ってこられないんだって!」


「戻ってこられないなら、完全に事件じゃないの? それなら警察が動き出すでしょ」


「多分今のところは、事件にならないような人達が消えているんでしょ。それでなんだけどさ……」


「どうせ一緒に行こうって言うんでしょ」


「さっすが! 分かってる!」


 こういう話をする時は、大体一緒に来てほしいというものだから、私は頼まれる前に自分から提案した。

 そうすれば案の定、手を合わせてミサは可愛らしくおねだりをしてくる。


「しょうがないなあ。後でご飯でも奢ってよね」


「いいよ!」



 いつもこんな流れで、私も肝試しに付き合わされていた。

 そして色々なところに行っていたけど、幽霊なんて一度も見たことが無かった。

 たぶん今日もそんな感じだろうと、そう気楽に考えていたのだけど、私は間違っていた。





(ミサは、無事だろうか)


 きっとすでに死んでしまっている。

 どこか冷静な頭がそう思っていたが、無事を願わずにはいられなかった。


 でも私の目の前で、ミサはよく分からない何かに呑み込まれた。

 必死に伸ばした手は空を切り、私は自分の身の安全を考えて、その場から逃げてしまった。


(もっと手を伸ばしていれば、ミサを助けられたかもしれない)


 後悔してももう遅い。

 とにかく今は、ここから出ることだけを考えなければ。


(あとちょっと……!)



 転ばないように気を付けながら走って、私はあと少しで光の元へ辿りつこうとしていた。

 あそこまで行けば、私は助かる。

 もう一メートルも無いところまで来て、自然と顔に笑みがこぼれた。




 そして光に辿り着いた私を待っていたのは、見覚えのある顔だった。



「お


                そ



     い





                           よ」




 ここはゴールじゃなかった。

 それが分かっても、もう遅い。


 私は何かに抱き留められ、そして消えた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゴール 瀬川 @segawa08

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ