風船ストライカー犬ダニエル
アほリ
風船ストライカー犬ダニエル
「わー!わー!わー!わー!わー!」
「オーレ!オーレ!オーレ!オーレ!」
ここは、とあるサッカースタジアム。
各々のチームのユニフォームを纏い、大きな旗を降り、サポーターやフーリガン達が、熱戦を繰り広げるサッカーゲームを観戦して声援を送っていた。
今日は、何れの対戦サッカークラブとも負けられない戦いだ。
サッカースタジアムの中は、凄まじい熱気に溢れていた。
「こらーーーっ!!まてぇーーー!!」
1匹の野良犬が、保健所の野犬獲りに追いかけられていた。
「はっ!はっ!はっ!はっ!はっ!はっ!」
野良犬の名前は『ダニエル』。
ダニエルは、この街を塒にしていた。
毎日、店のゴミ置き場の残飯を荒らしては店員に怒られ、
時にはワンパクな子供達にいじめられ、
時には心無い通りすがりに石を投げつけられる事も、しばしばだ。
それでも、野良犬のダニエルはこの街を縄張りにして生きていた。
「なんでぇ?!ちょっとポストにションベンしただけでしょ?
マーキングしただけで何も悪いことしてないのに、何で俺は他人に通報されなきゃならんのだぁーーーーー!!」
何処逃げても、獲り網を持って追いかける野犬獲りを撒こうも撒けなかった。
何処までも何処までもしぶとく追いかけて、野良犬のダニエルには逃げ場も無かった。
「ん?!」
野良犬のダニエルは、目の前のサッカースタジアムがあるのに気が付いた。
「そうだ!!この中に入ってあのしつこい人間を撒こう!!」
野良犬のダニエルは、スタジアムに向かう入場客の足元をスラロームした。
「わっー!!」
「なんだぁ?」
「犬だ!!」「野良犬が入ってきた!!」
入場客の野良犬のダニエルへ延びる手を交わし、堂々とスタジアムのスタンド内に入り込む事に成功した。
「犬だ!!」「犬がスタジアムに乱入してきた!!」
「可愛い!!」「触るな!!かみつかれるぞ!!」
スタンド場内が騒然とする中、野良犬のダニエルは遂に観客席を抜け、
グラウンドのピッチに!!
乱入した!!
今!正に!ホームアウェイ両軍が一進一退の白熱したプレイの最中にだ。
「犬だ!!」
「犬が乱入してきたぞ!!」
「わー!わー!わー!わー!わー!わー!」
ぴーーーーーーーっ!!
ジャッジの試合中断の笛が鳴った。
今度はスタッフが、突如乱入してきた野良犬を捕まえに追いかけてきた。
「ひぃぃぃぃーーーーー!!」
野良犬のダニエルは、血相を変えてスタジアムのスタッフに追いかけられ、縦横無尽にグラウンドを駆け回った。
「わー!わー!わー!わー!」
「早く犬を捕まえろーーー!!」
「逃げろわんちゃん!!頑張れわんちゃん!!」
「逃げきれーー!!あっ!スタッフ転けた!!」
スタンドのサポーターやフーリガン達は、この逃げろや逃げろの大捕物に、やんややんやと大喝采した。
「わーーー!!もうダメ・・・」
野良犬のダニエルが、ギブアップして立ち止まろうとしたとたん・・・
ふうわり・・・
スタンドから黒いゴム風船がひとつ、サッカーグラウンドに堕ちてきた。
それは、応援の為にホームのサポーターが持ってきた、チームカラーの黒い風船だった。
「ふ・・・ふう・・・ふうせん!!」
その黒い風船を見たとたん、目はカッ!!と見開き、
興奮して鼻の孔はパンパンに孕み、
息は、ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!と荒くなり、
一目散に猛ダッシュで、ころころとグラウンドに転がる黒い風船に群がった。
ぽーーーん!!
野良犬のダニエルは、ジャンプして黒い風船を鼻で突いた。
ダニエルが鼻で突いた黒い風船は宙に舞い、
また、鼻で突いてぽーーーん!!
ぽーーん!!
ぽーーん!!
ぽーーん!!
ぽーーん!!
野良犬のダニエルは、何度も何度も鼻で風船を突いて、風船で突いて、突いて・・・
グラウンドスタッフは、いきなり始まった野良犬の風船突きに、茫然としていた。
「あの野良犬のせいで、試合にならないよぉ・・・!!」
「追い出しますかぁ?」
グラウンドスタッフは恐る恐る、黒い風船を突きまくる野良犬のダニエルを捕まえに近付いてきた。
「うわっ!!」
間一髪、野良犬のダニエルは風船を突きながらするりとスタッフを次々とすり抜けて、風船突きを続けた。
ぽーーーん!!
ぽーーーん!!
ぽーーーん!!
ぽーーーん!!
「あのわんちゃんすげぇーーー!!」
「場内スタッフを、2人、3人、5人、8人、10人抜きした!!」
「あの犬、フィジカルすげぇーーー!!」
「がんばれー犬!!」「頑張れわんちゃん!!」
「わんちゃん!!わんちゃん!!」
「犬!!犬!!犬!!犬!!」
「わんちゃん!!わんちゃん!!」
「犬!!犬!!犬!!犬!!」
場内のサポーター達やフーリガン達は敵味方関係なく、風船を突きながらグラウンドスタッフや、加勢してきた選手達まですり抜けていく野良犬のダニエルを応援した。
「わんちゃん!!わんちゃん!!」
「犬!!犬!!犬!!犬!!」
「わんちゃん!!わんちゃん!!」
「犬!!犬!!犬!!犬!!」
するっ。
「あっ!!」
野良犬のダニエルは、うっかり黒い風船を突き損ねた。
ふうわり・・・ふうわり・・・
黒い風船は、グラウンド風に煽られて宙に浮いた。
ふうわり・・・ふうわり・・・
ぽすっ。
黒い風船は、ゴールのネットに触れてゴールポストの下に堕ちた。
≪ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーール!!!!!!≫
場内は一斉に歓声があがった。
轟音のような拍手がスタジアムじゅうにまき起こり、名風船ストライカー犬?のダニエルを称えた。
黒い風船は、ゴールポストの中でふわふわと転がっていた。
野良犬のダニエルは、再び鼻で風船を突き上げるとまた、
ぽーーん!!
ぽーーん!!
ぽーーん!!
ぽーーん!!
と、風船を鼻で突いてグラウンドを飛び回った。
ぽーーーん!!
ぽーーーん!!
ぽーーーん!!
ぽーーーん!!
またしても立ちふさがるのは、グラウンドスタッフとサッカー選手。そして・・・
保健所の野犬獲り?!
野良犬のダニエルは、そんなことには目をくれずにぽーーーん!!ぽーーーん!!ぽーーーん!!ぽーーーん!!と、相手をするりするりとパスして・・・
「へい!!今度はサッカーの試合をメチャメチャにしやがって!!捕まえてやるーー!!」
ゴールポストの前に、ゴールキーパーの如く立ちふさがる野犬獲りが身構えていた。
ぴょーーーーん!!
野良犬のダニエルは何を思ったのか、野犬獲りの目の前で跳び跳ねた。
ぽーーーーーん!!
野良犬のダニエルは、おもいっきり頭を黒い風船をヘディングシュートした。
ぽすっ。
黒い風船は、ゴールを揺らした。
≪ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーール!!!!!!!!≫
「わぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
スタジアムじゅうに歓声が響き渡った。
「ふ、ふざけるなーーーーー!!」
激昂した野犬獲りは、下で転がっている黒い風船を足で思いっきり踏みつけた。
ぱぁーーーーーーーん!!
「う~~~~~~~!!」
野犬獲りに目の前で風船を割られて激怒した野良犬のダニエルは、牙を剥いて野犬獲りに向かって威嚇した。
「ぶーーーーー!!」
「ぶーーーーー!!」「ぶーーーーー!!」「ぶーーーーー!!」「ぶーーーーー!!」「ぶーーーーー!!」「ぶーーーーー!!」「ぶーーーーー!!」「ぶーーーーー!!」「ぶーーーーー!!」「ぶーーーーー!!」「ぶーーーーー!!」「ぶーーーーー!!」
スタジアム場内のサポーターとフーリガン達は一斉に、野犬獲りにブーイングを浴びせた。
「お、俺が何をしたんだ?!」
野犬獲りは訳が解らずに、スタジアムから立ち去った。
ぽーーーん・・・
ぽーーーん・・・
ぽーーーん・・・ぽーーーん・・・ぽーーーん・・・ぽーーーん・・・ぽーーーん・・・ぽーーーん・・・ぽーーーん・・・ぽーーーん・・・ぽーーーん・・・ぽーーーん・・・
その時だった。
場内の客席から、ホームのサポーター色の黒い風船、アウェイのサポーター色の紫色の風船が次々とグラウンドへ弾んで来たのだ。
「割られた風船の代わりだよ!わんちゃん!!」「しょげるなよわんちゃん!!」「頑張れわんちゃん!!」
サポーター達やフーリガン達の飛ばしてきて、みるみるうちにグラウンドいっぱいに弾んでいる風船に興奮して鼻で徹底的に突いている野良犬のダニエルは、様々な労いの言葉が飛び交った。
・・・・・・
・・・・・・
その後、野良犬のダニエルはこのスタジアムをホームとするサッカークラブに保護犬として迎えられ、サッカークラブのマスコットになった。
応援の黒い風船には、ダニエルの似顔絵顔が印刷されるようになったり、
縫いぐるみといったダニエルグッズは飛ぶように売れた。
インターバルに行われる、風船ストライカー犬ダニエルによる、風船PK合戦は大人気をはくした。
流浪の野良犬から、好きな風船が縁でサッカークラブのアイドルになったダニエル。
今カードでも、ダニエルの華麗な風船シュート技が炸裂する。
≪ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーール!!!!!!!≫
~風船ストライカー犬ダニエル~
~fin~
風船ストライカー犬ダニエル アほリ @ahori1970
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