恋と冒険のゴール

ムネミツ

恋と冒険のゴール

 「こいつで止めだ、シルバーバレットッ!」

 俺は左手に持った魔導拳銃の引き金を引く。

 銃身を伝い魔力が流れ、銃口から銀色の光が射出されトロールの頭を

粉砕した。

 「私達の間に立ち入らないで下さい、ラヴァーズディスタンス!」

 全身を銀の甲冑で包んだ騎士の兜の中から少女の声が響く。

 ハートを胸に抱く女神像が彫られた巨大な盾を、銀の甲冑の騎士が突き立てる。

 盾から巨大な球状の結界が張られて俺と騎士を包んだ。

 俺と騎士に突っこんで来たゴブリンの群れが結界に触れるとパンパンと弾ける。

 「キリエ、その盾は殺意が高すぎるだろ!」

 俺は騎士ことキリエに語り掛ける。

 キリエは兜の面頬を摺り上げ、ピンク髪の眼鏡を掛けた美少女の素顔を見せた。

 「ダン先輩と私の邪魔をする輩に容赦は必要ありませんから♪」

 怖い事を言う子だ、冒険者学校時代にキリエに絡んでいたアホ学生を魔法弾の試射

の的にして叩きのめしてから懐かれてしまったので面倒を見ている。


 「先輩って、もう学生じゃないんだから」

 「では、旦那様♪」

 「……やっぱり、先輩で良い」

 「先輩が私を愛してくれているのはわかってますから、アイコンタクトで♪」

 いや、違うからな。

 俺とキリエは迷宮を進む、魔銃刀士の俺は中身が美少女とは思えない重聖騎士のキリエを遮蔽にして要所要所で怪しい個所を銃で撃ったりサーベルで小突いたりして罠の調査や解除を行って行く。


 「この石造りの迷宮が古代の地下神殿らしいのは信じるが、本当にあるのか願いを叶える秘宝ってのは?」

 休めそうな部屋を見つけて小休止中、この迷宮探索を持ちかけたキリエに尋ねる。

 「伝説によれば、この地下神殿の最奥部にあるそうです」

 「そこがゴールか、他の仲間にも声を掛ければ良かったぜ」

 「ドワーフのツーフさんと賢者のヨーツさんは、湯治だったのが残念でした」

 「ビールの飲み過ぎとぎっくり腰は治らないだろうな」

 酒飲みのドワーフの戦士と、老いても娼館通いが盛んな賢者を思い出しながら俺達はポーションを飲み、弁当を食って腹をこなす。

 「ところで先輩、お弁当のお味はいかがでしたか?」

 「ああ、美味かったよありがとう」

 俺はキリエに礼を言い広げた荷物を片付けて立ち上がる。

 キリエも兜を被りフルアーマーモードになって立ち上がり、二人で

進みだした。


 迷宮内に巣食っているモンスターやトラップを乗り越えて、ついに俺達は

ゴールである迷宮の最奥部へと辿り着いた。


 そこは、それまで進んでいた茶色い石造りの迷宮とは異なり白い大理石の床と柱で

造られた部屋。

 その場にいるだけで、不思議と心が安らぐような神殿と感じられる場所だった。

 「あ~、何だか心が洗われるようだ」

 「そうですね、先輩♪」

 キリエが俺に同意する、気が付くと部屋の中心の床には何かを立てる石の台座が

あった。

 「あれ? あの台は何かアイテムが必要なのか?」

 それらしきアイテムは探索する中で見つからなかった、どうすれば願いの叶う秘宝を手に入れられるんだろう?

 俺が頭を捻る間にキリエが、自分の装備である盾を台座に突き立てた。

 「え? その盾がキーアイテムだったのか!」

 「先輩、女神様が降臨なされますよ♪」

 部屋の天井から金色の光が降り注ぐと、キリエの盾の彫刻とそっくりな女神が

出現した。

 「よくぞ私の神具を神殿に戻してくれました、褒美として願いを叶えましょう」

 女神が両手を広げると、俺とキリエの左手の薬指が光り金の指輪が嵌められた。

 「キリエ、これが願いを叶える秘宝なのか?」

 「はい、です♪」

 キリエが、わけのわからない事を言い出す。

 「その指輪は永遠の夫婦の証、あなた方二人は決して別れる事無く誰にも愛を邪魔されず子宝に恵まれ死後も生まれ変わても再会し結ばれ続ける加護を与えました♪」

 ちょっと女神様がとんでもない事を言い出した。


 「先輩♪ ここは古代の恋愛と結婚の女神様の神殿なんです、私達はこれで死が二人を別つことなく永遠にゴールインする事が出来ますね♪」

 キリエが兜を捨てて笑顔で俺に抱き着く。

 「女神の名において、二人を夫婦として永遠に結び付け祝福しますお幸せに♪」

 女神様が、神の祝福と言う奴なのか俺とキリエに金色の光を降らせながら天へと帰って行く。

 いつの間にか、俺とキリエは神殿の外へと出ていた。

 青空と太陽が俺とキリエを祝福しているかのように綺麗だった。


 「おう、二人共結婚かめでたいのう♪」

 「かっかっか、ダンよキリエ嬢ちゃんと仲良くやるんじゃぞ?」

 いつの間にか俺達の前に、ローブを着たジジイの賢者ヨーツとドワーフの戦士の

ツーフが現れて俺達を祝福した。

 「ヨーツさん、ツーフさんお二人ともありがとうございました♪」

 キリエが二人に礼を言う。

 「ちょっと待て、二人が仕組んだのか!」

 俺がドワーフとジジイに叫ぶ。

 「キリエ嬢ちゃんを好いておる癖に、踏み出さんお前が悪い」

 「ふう、これでお前らを見守る仕事が終わったわい♪」

 「先輩♪ とっくに外堀は埋まっていたんですよ♪」

 悪びれないジジイとドワーフとキリエであった。

 

 こうして、俺とキリエは恋のゴールを迎え夫婦のスタートを切った。


 だが、俺は女神の祝福により来世もその次の来世もキリエとゴールを迎え続ける

事が確定した。

 ゴールは終わりではなく新たなスタート、終わりと始まりは繰り返して行くのだと俺は悟った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋と冒険のゴール ムネミツ @yukinosita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ