サリーとお店

 一か月振りにラタンの街に戻ると、街は変わらず賑わっていました。

 実家の屋敷を出たばかりなのに、この街にやってくると懐かしいような気分になります。そんな中、私は自分の店へと歩いていきました。


 一か月も放置してしまったので、店はもうさびれてしまっているのか、それともサリーが綺麗にだけはしてくれているのか、などと思いながら辿り着くと。

 そこには私がいた時ほどではないながらも、お客さんが店に出入りしている様子が見えました。


「え、何でやっているの!?」


 私が薬を作っていないのにどうやって営業しているのでしょうか。

 驚きつつも中に入っていくと、お客さんたちが「セシルさん!?」「戻ってきたのか!?」とざわめきます。


 そして、


「セシルさん!」


 中に入るなりカウンターにいたサリーがこちらに駆け寄ってきます。


「サリーさん!?」


 次の瞬間彼女は私を固く抱きしめていました。


「セシルさん、ご無事でよかったです!」

「心配かけてごめんね……」


 そしてサリーは涙を流します。


 周囲のお客さんも感動した様子で私たちの様子を眺めていました。その間お店はどうするのかと思っていましたが、何とエレンが代わりにお金のやりとりをしています。

 そこで感動的な再会の中、少し申し訳ないですが、私はそもそもの疑問を口にします。


「あの、そもそもどうして店はまだ営業出来ているのでしょうか?」

「実は……」


 そう言ってサリーは私が連れていかれた後のことを話します。


 私がいなくなった後、店では様々な議論が起きました。毒殺未遂の犯人が経営している薬屋なんか利用出来るか、というお客さんもいましたが、すでに私の薬で体調がよくなっていた方々は「むしろ毒殺の方が何かの間違いなのではないか」と思ったそうです。


 また、それはそれとして事件のことを何も知らずに薬を買いにくるお客さんもいて、しかも常備薬に関しては私が多めに作っていたこともあって、サリーは何となく店を閉めることも出来ずに営業を続けていました。


 当然営業を続けていると来店したお客さん同士、もしくはセシル不在の理由を訊かれて話はどんどん広がっていきます。

 そんな中、このお店で最初のお客さんであるトールがたまたま来店します。

 そしてサリーに尋ねました。


「こんなことになっちまったんだが、店はどうするつもりだ?」

「とりあえず今日は開けていますが、薬を作ることは出来ないので明日から閉めるつもりです」


 サリーが答えると、トールは肩を落とします。

 が、すぐに何かを思いついたように言いました。


「なあ、もし商品の薬が確保出来るのなら店を続ける気はないか?」

「え?」


 思いもよらない申し出にサリーは困惑しました。

 するとトールは熱弁します。


「だって、あのお嬢ちゃんが本当に犯人だなんて信じられない! それならそのうち帰ってくるはずだ。それに俺は客第一号だからこのお店が潰れるのは寂しいんだ」

「でも、どうやって続ければ」

「俺は行商人だ。知り合いに薬屋もいるし、どうにか商品を融通してもらうよ」

「そんなことが出来るのですか?」

「まあ、俺も前まではここで薬を買って売り歩いていたから急に逆にするのは難しいが、どうにか相談してみるよ」

「でしたらお願いします」


 この時サリーは何となく、と言うと言葉は悪いですがまさか本当に成功するとは思わずに頷いたようです。

 ですが実際にその後トールは他の薬屋から薬を仕入れることが出来たため、その薬を売るということでどうにかお店を続けることが出来たようです。


「すみません、でもよそから買った分どうしても値段が高くなってしまいまして、お客さんも減ってしまいました」

「ううん、ありがとう」


 私はサリーの気遣い、そしてトールや私がいない間も来てくれたお客さんに感謝します。値札をざっと見ますが、よその薬屋から買うと私が作るよりも仕入れ値が高くなり、恐らくよそよりも割高になってしまいます。それに元々私の薬を目当てに来てくれたお客さんもいたはずです。


 ですが私がいた時の常連さんの一部は私が戻ってくるのを信じて、お店に残ってくれていたようです。

 それはサリーが営業を続けてくれたおかげでしょう。もし店を閉めていればお客さんはよそに移ってしまい、店を再び開こうとしても取り戻すのが難しいかもしれませんでした。


「では今度はセシルさんのお話を聞かせてもらえないでしょうか?」

「分かりました」


 こうして私は今度は自分の話をするのでした。

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